2014.11.27
# 雑誌

富士フイルム「エボラから世界を救う薬」を開発するまでの苦闘16年

「富山の薬売り」のDNA
週刊現代 プロフィール

「そこで2万6000種類の化合物をランダムに選んでインフルエンザウイルスに効くか、一つひとつ手作業で試していったのです。シャーレに細胞を入れ、そこにインフルエンザウイルスを入れます。その中に化合物を入れ、細胞が生き残るかどうかを調べるという単純な実験方法です。

週に600種類ずつ試し、2万回以上の失敗を経た後に偶然、ウイルスに効果のある化合物、現在のアビガンにつながる『T-705』を発見したんです。'98年のことでした」(泉)

無念の開発中止

富山化学工業は発見したT-705を本格的に試験するため、富山大学医学部の白木公康教授(ウイルス学)に共同研究を持ちかけた。白木教授が語る。

 

「富山化学は昔から化合物を合成する技術には定評がありました。実際、T-705の構造図を見たときに、これは薬になると直感し、共同研究を承諾したんです。大学ではインフルエンザに感染させたマウスを使って、生体実験を行いました。一番気を使ったのは、情報漏洩ですね。実は大学というのは、よく情報が漏れるところなんですよ。民間企業に比べるとセキュリティがしっかりしていませんし、多くの製薬関係者が出入りしますから。大学関係者には秘密保持の意識が高くない人もいるんです。そこで、私は実験データを大学には残さず、富山化学のほうで保管してもらいました。

実験の結果、インフルエンザに感染させたマウスにT-705を投与すると、一匹も死ぬことはありませんでした。有効性が確認できたので、'00年9月にカナダのトロントで行われた学会で私たちの研究チームが発表したのです」

だが—。この学会発表は、ほとんど話題にならなかった。世界中の大手製薬会社にT-705の製品化を持ちかけても、乗ってくる会社は1社もなかったという。なぜか。

「その頃、ちょうどインフルエンザ薬として『タミフル』と『リレンザ』が発売されたからです。当時の製薬関係者は、もう新しい抗インフルエンザ薬は要らないと考えていたんですね。

また、元々製薬会社には長期的な投与が見込まれる薬を開発したがる傾向があります。たとえば、糖尿病や心臓病、高血圧に効く薬は、飲み始めたら亡くなるまで飲む薬。企業にとっては大きな売上高が見込めます。一方、インフルエンザの薬は飲んだとしても1週間。利益の幅が薄いんですよ」(白木教授)

それは富山化学にとっても死活的な問題だった。T-705がすぐに製品化できないのであれば、このまま開発を進める意味はあるのか――。

「実はインフルエンザ薬はマーケティング面でも極めて難しい医薬品なんです。インフルエンザが流行した年は売り上げが上がり、そうでないとガクンと下がる。

そこでこのままインフルエンザ薬の開発を進めるより、違う方向に注力したほうがいいのではないかということで、'02年にT-705の開発をストップし、これと似た構造を持つ化合物の中からC型肝炎ウイルスの治療薬を見つけて開発する方向へシフトさせました」(前出・泉)

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