ケンブリッジで身につく、自ら学問の世界を切り開き、自分を磨く「独学」の力

<現地レポ>ケンブリッジ授業潜入
オックスブリッジ卒業生100人委員会

自然科学の世界:Natural Scienceとして総合的に進める理学コース

まずは、自然科学、NatSci(Natural Sciencesの略、ケンブリッジでは「ナッツキー」と呼ばれる) の授業風景を紹介しよう。 NatSciはいわゆる「自然科学」をすべて含むため、様々な学科の中でも生徒の数は圧倒的に多い。このNatSciというコースは非常に特徴的で、専門性を早い段階から決めるイギリスの一般的なアプローチとは違い、科学のジェネラリストとして始める。つまり、物理、化学、生物学などを勉強したいと思っている学生は全員、自然科学専攻として大学に入学する。1年目は8つの科学分野(化学、物理学、細胞生物学、コンピューターサイエンス、地質学、材料学など)から3科目選び、これに必修の数学を加えた計4科目を一年間を通して履修する。どの科目を選択するかは個人に委ねられるため、学生一人一人が自分にあったコースを作ることができる。これらは、オックスフォードの事情とは少々異なる。

著者の木下の場合、1年目は化学、生理学、地質学、数学を選び、かなり幅広く勉強した。一つ一つの科目の内容が充実している上、学期期間も短いこともあり、他の大学の2、3倍の勉強量になるとも言われているくらいだ。しかし、このコースの構成は、「何を専攻するにしても、しっかりとした科学の知識と考え方の基礎を一年目で築くことが重要だ」という理念に基づいている。

2年目になると選択肢も増え、数学等を含む20程の選択肢から計3科目を選ぶ形式になっている。2年目もある程度科目の選択の仕方は自由だが、1年目よりは内容が絞られてくる。また、「科学の歴史と哲学」という、文系的な視点から科学を見つめる科目もある。1年目で育んだ幅広い基礎知識と応用力を元に専門性を徐々に高める。3年目には専門科目を1つ選び、選択科目(elective)をとって興味のある分野に特化する。科目によっては一般的な3年間の学士課程に加え1年で修士課程を得ることも可能だ。このように集中的な学問の方式で、内容の濃さを保ちながら比較的短い年数で卒業できる。

教授の個性溢れる多様な授業

では、授業自体はどのようなものなのか。学年によって多少変わるが、基本的に学部の授業は講義と実験授業とスーパービジョン(個人指導)の組み合わせである。自然科学は実習と科目数が多いため、学部の中でも「コンタクトタイム(いわゆる時間割におけるコマ数)」が一番多く、土曜日も朝9時から講義があることで有名だ。講義はそれぞれ別々の学科で教えられていることが多いので、ほとんどの授業がそれぞれ違う場所で行われる。例えば化学の講義と実習は化学部で、生理学と地質学部の講義は生理学部の教室、実習はそれぞれの学部で、数学は何故か歴史の教室で、という具合だ。スーパービジョンはたいていカレッジ内で行われるが、自分の属する学部を指定するスーパーバイザー(指導教官)もいる。そのため、日常で多くの学部に移動しながら授業を受ける。

一つの講義に出席する学生の数は科目にもよるが、数百人を超える化学から、60人ぐらいの地質学まで幅がある。講義はすべて1時間で、講師が生徒に向かって講義する形だ。授業中に質問する事はほとんどなかったが、質問がある場合は授業後に直接講師に聞く事もできた。どの科目もトピックごとに講師が変わり、「スライドを使い、授業ノートを配る」という形式は同じでも、講師によって講義のスタイルは大きく異なった。例えば講義ごとに講義ノートを配る教授もいれば、いっぺんに何週間分のノートをまとめて配る教授もいた。配られるノート自体、講義の内容をほぼ文字通りまとめたもの、講義で埋めるためのスペースがあるもの、また講義では触れない内容を含むものなどと、教授の好みによって様々だった。

化学のレクチャーでは、なんとか生徒を眠らせるまいと思っているのか、派手な化学反応をよく見せてくれた。シリアルに液体酸素をかけて燃焼させたり、「吠える犬反応」とも呼ばれている、その名の通り強烈な音と光を発する反応を仕掛けたり。

また、地質学では宇宙の果てから岩石の中まで、地球の誕生から今吹き荒れる火山の火口まで、色々な所へ連れて行かれた。地質学は大学に来る前に学んだ経験のある生徒が少なく、少し変わった科目とも見られている事もあるが、履修している生徒からはとても人気がある。多くの講義はとてもダイナミックで、堅い形式にとらわれず、 私たちはとても惹きつけられた。

生理学は一年間で動物も植物もカバーする上に、生物の細胞から器官のスケールまで含めるので、ついていくのがとても大変だった。しかし、どの教授も自分の分野に対する情熱を持っていて、それが生徒に伝わり、身の回りの生命に関心と驚きを持たせる科目でもあった。

数学はレベル分けされているのだがかなりペースが早く、「今の1時間、何が起きたのだろう」と友達とつぶやき合うことも多かった。

講義中のデモで生徒を引きつける