「認知症とは、社会脳が壊れる病気である」いかに食い止めるか?

『社会脳からみた認知症』前書き公開!
伊古田 俊夫 プロフィール

 わが国の認知症患者が四六〇万人を超え、予備軍が四〇〇万人いる事実が最近、公表されました。この憂慮すべき事態に目を向け、認知症を早期に診断し、治療・予防の軌道に乗せる知識を詳細に解説することを、本書の第二の目的としています。

 九〇歳を超えると五割の人が、九五歳を超えると八割の人が認知症になるという調査結果も出ています。長生きをすれば、誰でも認知症になりうる時代です。ぜひ多くのみなさんが認知症を正しく理解し、認知症の人の心の状態を知り、また、認知症を予防する対策を試みてほしいと願っています。

 本書は、第1章から第5章までを、社会脳科学、社会脳という視点からみた認知症の解説に割いています。第6章以降では、認知症の早期発見や早期診断、予防に関する知識を解説しています。前著の内容と重ならないよう、新しい知見を整理して盛り込みました。

 米国のベースボールリーグはメジャーとマイナーに二分されていますが、認知症にもメジャーとマイナーが存在します。マイナーのうちに診断して、治療を開始するという方向が、認知症医療の最新トレンドになっています。米国精神医学会で提唱されたこの考え方についても、第6章以降でご紹介します。

 うつ病や認知症の増加を背景に、現代社会を「思考や知性の危機の時代」としてとらえることが可能です。そのような時代の到来に対する一つの先駆的な予言として、都筑卓司『マックスウェルの悪魔』(講談社ブルーバックス、初版一九七〇年、新装版二〇〇二年)における考察をご紹介し、思考や知性の危機についても思いをめぐらせてみました。

 認知症の増加を、社会における思考や知性の危機の一つの表れとしてとらえると、何が見えてくるのでしょうか? 読者のみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

 本書では、実際の患者さんの事例を数多く取り上げ、具体的でわかりやすい記述を心がけました。いずれの事例も、私自身が診療してきた患者さんをモデルにしていますが、職業やエピソードなど個人情報に関わる部分は適切に変更し、個人が特定されないよう配慮しています。

 本書には、脳の画像としてMRI(核磁気共鳴画像法)、CT(コンピュータ断層撮影)、SPECT(単一光子放射断層撮影)の三つが登場します。MRIとCTは脳の「形」を映し出す検査であり、SPECTは脳の「血流量」を画像化する検査です。

 たとえ形が正常であっても、血流が低下したときには脳の働きは低下します。脳SPECTを使うことで、CTやMRIではわからない変化(機能低下)を描き出すことができます。この点については前著で詳しく解説しましたので、ご参照ください。

 第6章でも紹介するように、最近は脳SPECTでドパミン代謝を画像化する検査が可能となっていますが、断りのないかぎり、本書で扱う脳SPECTは血流画像です。また、同じ画像診断法に属する検査法としてPET(ポジトロン断層画像診断法)や機能的MRI(fMRI)などがあり、社会脳研究で使用される中心的な研究機器となっています。本書では、研究論文からの引用のかたちで両者の写真を利用させていただきました。

著者 伊古田俊夫(いこた・としお) 
一九四九年、埼玉県生まれ。七五年に北海道大学医学部卒業後、同大脳神経外科、国立循環器病センター脳神経外科を経て、八四年に勤医協中央病院脳神経外科科長、二〇〇一年に同院院長に就任。二〇〇八年から同院名誉院長。二〇一〇年、札幌市認知症支援事業推進委員長。日本脳神経外科学会専門医、認知症サポート医。認知症の地域支援体制づくりに取り組むかたわら、社会脳科学の立場から認知症の臨床研究を進めている。著書に『脳からみた認知症』(講談社ブルーバックス、二〇一二年刊)がある。
『 社会脳からみた認知症 』
徴候を見抜き、重症化をくい止める

伊古田俊夫=著

発行年月日: 2014/11/20
ページ数: 240
シリーズ通巻番号: B1889

定価:本体  900円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)