2014.11.04

オックスフォードで学んだ、アニメまでアカデミックに議論する「思考の作法」

オックスブリッジの学部教育
オックスブリッジ卒業生100人委員会

自然発生する学際問答

セイント・キャサリンズカレッジのホール(学食)では、日曜日や祝日以外は毎日3食出るため、特に昼食と夕食は多くの学生でにぎわいます。そこでは課題や勉強についての話、時事・スポーツや教授の噂話などが飛び交います。これは世界中どこの大学でも似たようなものでしょう。ところがオックスフォード大学では、中には食事時間が終わってもホールに溜まり、熱く議論し続けた挙句、管理人に追い出される学生を見ることが度々あります。そんな光景を見たら、議論、いや、むしろ「問答」をしていたのだと思って間違いありません。

この手の「問答」は専攻が違う学生の間でよく起こります。ある日の昼食の席で、PPE(政治・哲学・経済)を専攻していた友人のクレアが、チュートリアルの課題だった「決定論」についてPPEの同期に愚痴をこぼしていました。彼女が属していたキリスト教の宗派で「自由意志」は重要な価値観なので、「決定論」をなんとか破りたいという話をしていたのです。すると、隣に座っていた物理専攻の別の友人が、ラプラスの悪魔(宇宙全ての原子の動きを計算できる空想上のコンピューター)の話を持ち出してきました。彼女は「そもそも物質の動きと人間の意志は別の問題だ」と反論し、この問答は結局40分以上、ホールの管理人に追い出されるまで続きました。

別の日にも、音楽と数学の関係について数学の学生が意見を述べたり、法学の学生が「ナショナリズム」について人類学の学生と議論したりしていました。そのようなやりとりは横で聞いているだけでも非常に面白く強く印象に残っています。分野の組み合わせと話題は無数にあり、この世に存在するものは全てが問答の対象となるほどの勢いでした。実は「攻殻機動隊」におけるバーチャルリアリティー(仮想現実)技術など、日本のアニメすらこのような問答の対象となっていました(オックスフォードのアニメオタクやコスプレイヤーについての体験談は近日中に別著で紹介の予定です)。神の存在や遺伝子組み換え作物のようなありきたりな話題でも、なぜ人は神を信じるのか、左派活動家が満足する遺伝子組み換え作物とは何かなど、一捻りすれば、問答のスタートです。

問答の場はカレッジの外にもあります。オックスフォードには学術分野ごとにソサエティー(サークルのようなもの)があり、数学にはInvariant Society、PPEにはPPE Societyがあります。ソサエティーでは、よく他大学から専門家を招聘しての講演会が行われます。Scientific Society (OUSS)のような対象分野が広いサークルでは、分野横断的な交流も行われます。私自身はOUSSが開催する講演会によく参加していました。ノーベル賞受賞者が登壇する日は、早く行かないと講義室の席が埋まり、窓の外の立ち席で聴講する羽目になることもありました。そんな学術系のソサエティーでは、講演会のあとに立食形式でのディスカッションタイム(懇親会)があります。まずは講演の感想から入りますが、そこでも遅かれ早かれ問答が始まります。

カレッジで同じ寮(Staircase)だった同期と

カレッジでは様々な科目の学生が寝食を共にしています。カリキュラムや日々のスケジュールに差はありますが、みんなそれぞれの専攻を通じて学問という「思考の共通言語」を持つように教えられています。共通言語を持つと、お互いの専門用語や特定の知識を知らなくても、言わんとしている事が不思議と通じてしまうのです。これが分野を跨ぐ問答を成立させているのではと、今にして思っています。

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