「老後破産」激増の危機と「大人のひきこもり」---『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』著・池上正樹

池上 正樹 プロフィール

そうした日々寄せられる当事者や家族の声に接してきた印象では、全体的に「ひきこもり」の高年齢化、生活困窮化が進み、家族の力が弱くなってきている。これまでは年老いた親世代の年金で何とか生活を維持してきたが、家族が外に向かって声を上げなくなっている中で、生活に行き詰まった当事者たちはどうしていいのかわからなくなっている。当事者たちの大半は、「仕事をしたい」「自立したい」「社会につながりたい」「普通になりたい」と思っているのに、そのノウハウを知らないのだ。

だからこそ、社会の力が必要になってきているのである。このまま社会に居場所のない「大人のひきこもり」を放置していたら、いずれ「老後破産」を激増させかねない―そんな危惧を抱いている。

しかし、いまの支援のあり方を見ていると、当事者の思いとの間にミスマッチが起きている。なぜなら、行政がノルマを課して力を入れてきたのは、「就労支援」だからだ。

ところが、実際には、ひきこもってきた本人を支援機関が就労につなげても、そこはブラック企業だったりする。「就職できるなら、ブラック企業でもいい」などと煽る、生身の現実を知らない専門家もいるが、そんな職場で頑張り過ぎて疲れ果て、また戻ってますますひきこもってしまう事例も少なくない。本人のペースや状況がそれぞれ違ううえ、それが本人の望む支援ではないために、なかなかうまくいかないのだ。しかも、行政の担当者は、2~3年で異動してしまうので、支援事業は委託先の団体に事実上、任せきりとなり、担当者の意識が高いかどうかによって、受けられる自治体のサービスにもかなりの格差が生まれている。

私がとくに言いたいのは、意欲を持ち始めた、少し元気になって動き始めた当事者たちが、外に出たいと思っても、いったいどこへ行けばいいのか。その行き場がないという、いまの日本の現実だ。

他人の気持ちを察して気遣える、ある意味、もっとも日本人的な美徳をもった人たちの感性や潜在能力が、社会の中で有効に活かされない。こんな〝社会的損失〟を大量に生産し続ける国の仕組みが、実にもったいないのである。

私たちは2年前から、対話を通して、ひきこもり当事者と一緒に未来の仕組みを考える「ひきこもりフューチャーセッション」を始めた。フューチャーセッションと書くとわかりにくいが、当事者や家族、専門家だけでなく、多様な社会資源を持った一般の人たちも巻き込んで、ファシリテーター(促進者)が創造的な対話をつくりだしていく空間だ。

「庵―IORI―」と名付けられた東京のセッションは、偶数月の第一日曜日に定期的に開催。参加者は毎回70~80人に上り、そのうちの半数から三分の二近くを当事者が占めている。ファシリテーターは答えを持たない。当事者たちが対等な関係の場に入って対話することで、当事者目線からアイデアが生まれ、具現化をサポートしていく。自分でも何かできるんじゃないかという気づきをそれぞれ得ることができる。

この「庵」で社会資源を持った人との出会いをきっかけに一緒に新たな行動へと移したり、自ら活動を始めたりした当事者もいる。当事者が講師になって、ひきこもっていた経験や自らの持つ知恵を授業する「ひきこもり大学」も、「庵」から生まれた。要は、これまでのような一方的な上下関係ではなく、みんなが同じ目線で未来の仕組みを対話し、一緒に作り上げていく。本書は、主にこの二つの新たな取り組みを中心に紹介した。

これから必要なのは「就労支援」ではない。むしろ、嫌とは言えない当事者の特性を考えると、逆に「支援」を止めなければいけない。大事なのは、本人たちが自主的に動き出すことであり、その入り口となる「居場所」づくりと、一緒に考えながら道なき道をつくり続ける「伴走」のような関わり方なのではないか。

(いけがみ・まさき ジャーナリスト)
読書人の雑誌「本」2014年11月号より

池上正樹(いけがみ・まさき)
1962年、神奈川県生まれ。大学卒業後、通信社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。おもな著書に『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『ドキュメントひきこもり』(宝島社新書)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、『ふたたび、ここから 東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)、共著書に『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(同)がある。現在、ダイヤモンド・オンラインにて「「引きこもり」するオトナたち」を連載中。

池上正樹・著
『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』
講談社現代新書 /税抜価格:800円

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