私は2年前、大阪市の印刷会社の従業員たちに胆管がんが多発しているという異様な事件を取材し、その原因が洗浄剤として使われていた化学物質にあることを突き止めて報じた。詳しくは、「現代ビジネス」に発表したレポート「恐怖の『胆管がん多発事件』はなぜ起こったか」に記したので、興味のある方はご覧いただければと思う。
前編) http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34025
後編) http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34120
私は当時の取材を通じて、工場で使用している洗浄剤が、現代社会にとって想像していたよりもはるかに不可欠な存在になっていることを知った。そして、洗浄剤として使われる化学物質に、強い分解力と速乾性が求められていることも知った。
言うまでもなく、これは印刷業界のみに特有な問題ではなく、まして日本のみに特有な問題でもない。どの産業も、どの国も、洗浄剤とそこに含まれる化学物質と無縁ではいられないのだ。
胆管がんを引き起こした洗浄剤を作っていたメーカーの工場長は、私の取材に対してこう言った。
「印刷業界なんて、洗浄剤を利用している量で言ったら、大したことはありません。金属産業、それに半導体産業などはかなりの量を使っています」
彼の言葉はウソではなかった。実際、よく似た事件が、隣の国の半導体産業の現場で起きていたからだ。
舞台は今、世界を席巻している巨大企業の工場。そして、現場の人々を蝕んでいた病気の名は、白血病だった。