石川次郎 第2回 「若き日の横尾忠則による傑作『浅丘ルリ子裸体姿之圖』誕生秘話」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 伝説によれば、ジローが浅丘さんに電話を掛けて彼女のスリーサイズを訊き出したそうじゃないか。

石川 いやいや、横尾さんが浅丘さんに電話して直接訊いたんだよ。第一、ぼくは浅丘さんの電話番号なんて知らないもの。でも横尾さんは浅丘さんと親しかったから、受話器を片手に「ぼく、これからルリ子さんのヌードを描くんだよ」なんていってね。

ちょうどそのとき浅丘さんが風呂上がりだったらしく、「じゃあ、ルリ子さんの体の特徴を教えて」と踏み込んでいった。だから腰のあたりにパンティのゴムの跡があったり、下腹部にホクロがあったりという、細かいプライベートな情報まで仕入れて描くことができたんだよ。それが絵の中で、<今様流行りパンティ紐あとエロティシズム><臍右上直径壱ミリ黒子>などと解説されているやつ。

浅丘さんが横尾さんを信頼していたからこそ、そこまで協力してくれたんだろうし、横尾さんにしても、大好きな浅丘さんがヌードを描くことを許してくれたわけだから、本人が目の前にいなくても、いい作品を描きたいという思いが強かったんだろうね。結構、力が入っていたのが横にいてよくわかったよ。

いや、なにしろぼくはそのときその場にいたんだから。携帯のない時代、黒電話の重い受話器を持って浅丘さんの話を聞きながら横尾さんが筆を走らせていていく、その傍にいられたんだから幸せだった。そんなふうに描かれた『浅丘ルリ子裸体姿之圖』はその後横尾さんの代表作のひとつとなり、世界的にも有名な作品になったというわけだ。

シマジ 凄い真相を聞かせてくれてありがとう。有能な編集者というのはやっぱり強運の人なんだね。

石川 ぼくはシマジみたいに強運じゃないよ。じつはあれが誌面に載った後、日活と大揉めになったんだよ。会社からは「お前、日活に事前に話を通してなかったのか?」と怒られるし、とにかく大変だったんだから。

当然、事前交渉なんてしてなかった。だって当時のぼくは芸能界のルールとかしきたりとか、まったく知らなかったからね。でも横尾さんは偉かった。「次郎くん、心配しなくていいよ。ルリ子さんがOKしてくれているんだから平気だよ」とぼくを励ましてくれたんだ。

立木 でも事前に日活に相談していたら、あの傑作は世の中に誕生しなかったんじゃないの。

シマジ おれもそう思うね。一度しか出来ない離れ業だけに、それを発想したジローの勝ちだよ。