「老後破産」200万人の衝撃 「破産する人」「しない人」ここが分かれ目だった

65歳以上の16人に1人が直面する
週刊現代 プロフィール

藤田 そうなんです。いま住んでいるところに住み続けながら生活保護を受けましょうという方向に国の政策は動いているんですが、福祉事務所の現場では「資産を売却してから」という説明が、まだまだまかり通っているんです。世の中にも「家や車を持っていると生活保護は受けられない」という誤った情報が広まっているので、事前に諦めてしまうお年寄りも多いんですよね。

年金額15万円の落とし穴

結城 制度上の問題もありますよね。

藤田 はい。生活保護を受けるためには、親族に扶養能力があるかどうかを調査してからということになっています。そのための「扶養照会」は三親等以内の親族に対してなされます。つまり厳格に運用されれば、兄弟姉妹やおじおば・甥姪はもちろん、配偶者側の兄弟姉妹やおじおば、子供や孫、ひ孫らの配偶者にまで知られることになる。

生活保護を申請しようと福祉事務所に行ったら、まずそれを説明されるため、「そんな遠い親戚にまで連絡されるなら、生活保護なんて受けたくない」と高齢者は躊躇してしまう。他人には迷惑をかけたくないと思いますからね。

結城 貧困状態にある高齢者というのは、いろんな事情で家族や親族と疎遠になっている人が多いわけです。極言すれば高齢者の貧困問題は、生活保護を受けてもらうことで解決できます。

ですがこれから問題になってくるのは、中小企業に勤めていたサラリーマンなど、定年後の収入も生活保護水準以上にある人ではないでしょうか。

 

藤田 そうなんです。サラリーマン時代にあまり給料が多くなかった人は、厚生年金の額が15万円以下という人が多いんですが、この程度の収入があると、生活保護の給付対象にならないケースもあります。

受け取る年金は報酬に比例し、現役世代の収入の5~6割に設定されています。たとえばモデルケースとして、月収30万円の人は引退後、65歳以降に月15万円以下で暮らしていかないといけない。このラインの人の生活水準は、おそらく生活保護レベルよりも低くなる可能性が大なのです。

なぜなら、生活保護の人は税金や健康保険・介護保険の保険料も免除になる。医療費も実質的に全額免除です。比べてみると、生活保護レベルの少し上の層が最も生活が厳しいというのが現実なんですね。

結城 サラリーマンとして定年まで勤めたし、年金ももらえるから大丈夫だと思っている人ほど、リスクが高まる可能性があるということですよね。こういう層にまで生活保護のセーフティネットを広げられればいいけれど、財源の問題もあるので、実際問題難しいでしょう。

たとえば、生活保護を受けていなくて収入が一定以下の人に対しては、健康保険料・介護保険料を免除し、医療費も無料にすることも一つの方法かもしれません。

藤田 高齢者が貧困に陥る最大の原因は、病気と介護なんです。無料低額診療施設もあるんですが、この存在はあまり知られていません。そういう中で、結城さんがおっしゃるように医療や介護費の負担が減れば、高齢者は楽になりますね。

結城 老人の貧困は表からは見えにくい。でも、隠れている貧困高齢者をどうにかして見つけ出し、福祉サービスに結び付けていくことが大切です。そうしないと本当に社会秩序が崩壊してしまいます。

藤田 高齢者の貧困問題を解消するためには、若年層の雇用問題もどうにかしないといけないですよね。非正規雇用ではなく、若者が安定的な生活を送れるような雇用環境を整えていかないと、彼らが頼っている親世代の貧困が解決しないし、近い将来、大量の貧困世代が生まれることになりますから。

結城 それと希薄化した家族関係に対する施策ですね。行政に支援を求めているような高齢者は、家族関係が崩壊している人がほとんどなんですから。家族関係を深めていくような何らかの対策が必要です。

現状では、生活保護にせよその手前のボーダーラインのレベルにせよ、就労できない高齢者の貧困は放置しておけない問題です。破産状態に陥らないための知識を個人が持っておくと同時に、国の制度も見直していかないと、老後破産の問題はさらに深刻になってしまうでしょう。

→第3部【年齢・タイプ別 この先「かかるカネ」】はこちら

藤田孝典(ふじた・たかのり)/生活困窮者の支援活動を行うNPO法人ほっとプラス代表理事。反貧困ネットワーク埼玉代表なども務める。著書に『ひとりも殺させない』(堀之内出版)など
結城康博(ゆうき・やすひろ)/淑徳大学総合福祉学部教授。社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士として地方自治体に勤務した後に現職。近著に『孤独死のリアル』(講談社現代新書)など

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