篠崎史紀 第4回 「"鈴木鎮一スピリット"を受け継いだ父・篠崎永育の怪物的教育法」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ ところで、マロさんがステージに上がるときの燕尾服の裏地には着物地を張っているそうですね。

篠崎 はい。わたしは日本文化が大好きで、燕尾服の裏にあえて着物の生地を使っています。周囲はポカンとしていますけど。

あるとき、ヨーロッパでわたしの服を作ってくれているマイスターから「これを読め」と民族衣装がたくさん載っている本を渡されたんです。そこに日本の江戸時代のことが書いてあって、「江戸時代に将軍が贅沢禁止令を出したので、商人たちは外側は紺や茶など地味な色を使い、内側には美しい生地を張っていた」というような解説が載っていました。

そのときマイスターに、ここに書いてある「IKI」っていうのはどういうことだ? と訊かれたんですが、「粋」に当てはまるドイツ語がないので説明出来なかったんです。でもマイスターは、「世界中の民族衣装のなかで、内側を飾るのはお前の国だけだから、この文化を大切にしろ」と言ってくれまして、仕上がったばかりのスーツの裏地にスカーフを張ってくれたんです。

シマジ それこそ粋なマイスターですね。

篠崎 その後「粋」についての本を読んだんですが、いまもよくわからないままです。

シマジ 九鬼周造の『「いき」の構造』ですね。あれは難しい本です。粋というのは西洋のダンディズムとも少しちがいますしね。

篠崎 そこに飾られている「人生は運と縁とセンスである」という言葉は名言ですね。

立木 名言ではなく迷言だね。

シマジ 人生は先祖からもらった運、自分で切り開いた縁、そして自分自身で磨き上げたセンスがあれば、なんとか上手に渡っていけると思うんですよ。

篠崎 これをメモして弟子たちにも教えなきゃ。