[BCリーグ]
信濃・大塚晶文監督「監督1年目で得た反省と、見えた選手の成長」

スポーツコミュニケーションズ

7年越しにかなった“けじめ”

 さて、15日の最終戦では、信州大学附属病院に入院している7歳の小松愛子さんが米国で心臓移植手術を受けられるようにと、球団が募金活動を行ないました。少しでも盛り上げようと、その日、私の登板が企画されました。公式戦のマウンドに上がるのは、実に7年2カ月ぶりのこと。これまで支えてくれた方々の感謝の気持ちをこめて、また自分のけじめとしても、とてもありがたい企画でした。とはいえ、肩の痛みもあり、練習期間はわずか1週間でしたので、正直、「ちゃんと投げられるだろうか」という不安があったのも事実です。

 しかし、その不安は1日で消えました。翌日、小川のピッチング練習を見ていた際に、大きなヒントを得たのです。それは、右足一本で立った時のグローブの位置でした。これはピッチングにおいて非常に重要で、このグラブの位置で、その後のトップへの持って行き方や、腕の力の抜け具合が決まってくるからです。トップの位置というのは、ピッチャーにとって生命線であり、私にとっては永遠のテーマでもありました。

 そのグラブの位置が、小川は以前、顔の前にありました。ところが、それが右耳の横に移動していることに、私はその時気づいたのです。実は私自身も、顎の前にグラブがあるような状態でした。それを小川と同じように右耳の横、つまり以前よりも頭に近づけてみたところ、非常にテイクバックしやすくなったのです。実際、本番ではイメージ通りのボールを投げることができました。

 実は当日、私はいろいろなことが走馬灯のように頭に浮かび、感慨深くなって、ブルペンにいる時から既にこらえきれずにいました。ブルペンを出る時も、涙で前が見えず、柱にぶつかりながらマウンドへと向かったのです。マウンドでボールを渡された時、「自分を一番表現できる場所に、やっと戻ってきたんだ」という思いがあふれ、また涙が出てきました。しかし、そんな状態では身体に力は入りません。マウンド上で気を引き締め直し、バッターを迎えました。

 投げたのはわずか5球。真っ直ぐのスピードは戻ってはいませんでしたが、それでも指にかかったボールがいっていました。すると1ボール2ストライクと追い込んだ時、無意識にも「真っ直ぐで決めたい」というピッチャーとしての本能が出てきました。しかし、力が入り過ぎてボール。実は、2006年のワールド・ベースボール・クラシックの決勝戦もそうでした。2ストライクと追い込んだ最後のバッターを「真っ直ぐで締めたろ」と思って力んで投げた球がボールになったのです。そこで「やっぱりオレの決め打はスライダーなんだ」と冷静になり、ワンバウンドのスライダーで三振に仕留めて、世界一となったのです。この時もまったく同じでした。自分の決め球が何かを思い出し、最後はスライダーで三振を奪ったのです。

 7年前、私はレッドソックス戦で内野安打を打たれた直後、腕の張りを訴えて交代し、その後は一度もマウンドに上がっていません。「最後は三振を奪い、アウトを取って、現役を終えるんだ」。それが私の悲願であり、その思いで辛いリハビリにも耐えてきたのです。それがようやく叶い、現役としてのけじめをつけることができました。そんな機会を与えていただいたことに、本当に感謝しています。

 さて、監督として初めてのシーズンを過ごしてみて、監督というポジションがいかに大変かを痛感させらました。選手の時には自分のことさえしっかりやっていれば良かったので、オンとオフの切り替えもできていました。しかし、監督に就任して以降は、チームのことが頭から離れることがありませんでした。チームとしてどう戦っていくべきか、選手をどう育てようか、ファンや地域のためにはどうすればいいのか……と、寝ている時でさえもついつい考えてしまうのです。「指導者というのは、ここまで選手やチームのことを考えているのか」と身に染みて感じた1年でもありました。今季、経験したことを、次に活かしていき、これからは指導者として大きな夢をもって頑張っていこうと思っています。

大塚晶文(おおつか・あきのり)>:信濃グランセローズ監督
1972年1月13日、千葉県生まれ。横芝敬愛高、東海大、日本通運を経て、97年、近鉄にドラフト2位で入団。セットアッパー、クローザーとして活躍 し、2001年には12年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。02年オフ、中日に移籍。翌オフにポスティングシステムで念願のメジャー入りを果たす。 04、05年はパドレス、06、07年はレンジャーズで活躍した。06年第1回ワールド・ベースボール・クラシックではクローザーとして5試合に登板。決 勝では8回途中から登板し、胴上げ投手となった。昨年、信濃グランセローズに入団。今季は監督を務める。
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