[BCリーグ]
信濃・大塚晶文監督「監督1年目で得た反省と、見えた選手の成長」

スポーツコミュニケーションズ

小川、アンダースロー転向のメリット

 チームとしては結果を出すことはできなかったものの、それでも選手たちは皆、成長してくれました。なかでもキャッチャーの尾中智哉(北見緑陵高-北翔大-SフォークD21-福井ミラクルエレファンツ)は変わりましたね。昨季までは打たれると「ピッチャーが、ここに投げてこなかった」と不満を口にすることもしばしばでした。しかし、今季はさまざまな人たちのアドバイスを受け、非常に素直な気持ちを持てるようになりました。もちろん、心の中ではいろいろと葛藤はあったでしょうし、時折顔に表れることもありましたが、それでも「打たれたら、キャッチャーである自分の責任」というようになったのです。

 また、ピッチャーでは小川武志(拓大紅陵高-松本大)ですね。小川は昨季、最速144キロのボールを投げていましたが、14試合に登板し、防御率5.16と結果を出すことができませんでした。そこで「このままでは自分は伸びない」と考えたのでしょう。オフにアンダースローへの転向を決意したのです。春のキャンプで見てみると、スピードこそ130キロ未満とグンと落ちましたが、それでもかたちにはなっていましたので、そのままアンダースローでやらせみることにしたのです。ところが、前期の前半、ここぞというところで打たれることが多く、結果が出ませんでした。

 そこで後半になって、小川から「やっぱり上から投げます」と言って来たのです。すると、スリークオーターに戻した途端に、スピードがグングン上がり、最速は147キロまで伸びました。さらに、真っ直ぐのスピードが上がったことによって、アンダースローにした時に覚えたシンカーが活きはじめました。真っ直ぐとのスピード差が大きく、緩急のついたピッチングができるようになったのです。

 また、身体の使い方が良くなりましたね。これも一度アンダースローにしたことが活きています。アンダースローというのは実は一番いい投げ方なのです。というのも、しっかりと下半身を使い、左肩を開かずに、ヒジをたたんで投げなければいけないからです。つまり小川は、アンダースローに転向したことで、身体の使い方も覚えたのです。

 周知の通り、7月にはセットアッパーとしてチームを支えてきた小林宏が埼玉西武へと移籍し、NPB復帰を果たしました。そこで私は、小川を小林の穴埋め役に抜擢し、クローザーの前の8回という責任あるポジションを与えました。この抜擢に、前期の成績を見れば、驚いた人も少なくありませんでしたが、私は小川ならきっと成長してくれるに違いないという確信があったのです。その私の期待に、小川は見事に応えてくれました。

 9月7日の富山サンダーバーズ戦でも、小川は見事なピッチングを見せてくれました。6回を終えて2-0とリードしていたのですが、7回表に1死一、二塁とチームはピンチを迎えました。ここで私は、小川をマウンドに上げました。小川は打者2人を、わずか5球で内野ゴロに打ち取り、ゼロに抑えてくれました。するとその裏、味方打線が打者10人の猛攻で一挙5点を挙げ、結局その試合は8-0で快勝することができました。しかし、7回に失点していれば、相手に流れがいっていたかもしれなかったのです。それを食い止めたのが小川でした。私はそんな成長した小川の姿に、思わず涙が出てきてしまい、それを隠すのに必死でした。それほど小川の成長ぶりには目を見張るものがありました。

 また、7月に加入した伊藤一(富士見高)ですが、トライアウトで140キロ台のボールを連発するなど、非常に高い素質を持っている若手です。しかし、これまで厳しい練習をしてこなかったのでしょう、加入当初は体力不足が目立ちました。例えばダッシュをさせても、他の選手の3分の1ほどで立つことができないような状態だったのです。まずは基礎的な身体づくりからのスタートでした。また、高校3年の夏の県予選で四球を2ケタも出すなど、伊藤には成功体験が乏しいということもありました。そこで、焦らずに成功体験が積めるようなところで投げさせ、自信を持ってほしいと思っていました。

 その自信を得たであろう試合が、9月13日の新潟アルビレックスBC戦でのピッチングです。2番手として6回から登板し、3イニングを3安打無失点と好投しました。しかし、マウンドに上がったばかりの6回は、死球と2本のヒットで無死満塁という大ピンチとなったのです。実は伊藤は、前の登板で手痛い一発を浴びていました。7月21日、新潟戦で登板し、4番打者に3ランを浴びたのです。それ以来の登板で、しかも同じ相手ということもあり、嫌なイメージを抱いていたことでしょう。

 そこで私はタイムをかけてマウンドに行き、伊藤に「ランナーを返してもいいから、絶対にボールを置きにいくようなことはするな。オマエの良さは腕の振りなんだから、思い切り腕を振って投げろ」と発破をかけました。すると、気持ちが切り替えられたのでしょうか、伊藤は後続をきっちりと打ち取り、無失点で切り抜けたのです。そしてさらにその後の2イニングもほぼ完璧に抑えました。この試合は、伊藤にとって大きな成功体験となったことでしょう。来季はさらなる成長が楽しみです。

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