前号では、ホテルの和朝食を紹介した。まだ数は少ないが、街の飲食店でも朝食を出す店が増えている。今号はそのなかから優れた店を二軒ご紹介したい。
まずは、西麻布『栩翁S』、“くおうえす”と読む。30代の若い料理人が営む割烹料理店だ。夜は全国から吟味した食材を巧みな技で昇華させる。昼の営業はないが、朝食は予約に限り提供している。ご飯、味噌汁、小鉢、新香で構成されるシンプルな朝食だが、魚の質が最上級であり、超一級の和朝食がいただける。
例えば初夏の和朝食は、きんめ、スズキ、アジのなかから選べる。ある日は福井産のアジの塩焼きを選んだ。30cmほどの大きな真アジが炭火で焼かれ、皮に箸を立てると、パリッと身に入っていく。ほの甘いうま味がのった尻尾の部分、脂がのった背側の部分、香ばしい皮としっとりとした身を一緒に口に入れ、すかさず炊きたてのご飯を食べる。また、静岡のキンキの照り焼きは、締まった身が舌の上ではらりはらりと舞って、柔らかな甘みを滲ませる。
炊きたてのご飯、季節を感じさせるお新香に香り高い味噌汁、しんとり菜のおひたし。一点の曇りなき正統な日本の定食だ。食べ進むうちに、姿勢が正され、身の内が清らかになっていく。凡百の焼き魚にはない品のある後味が、海に囲まれた国の幸せを実感させる。・・・・・・この続きは『現代ビジネスブレイブ イノベーションマガジン』vol093(2014年9月17日配信)に収録しています。