教育・退職・介護という3つの課題を抱える「トリレンマ世代」---資産準備のために知っておくべきこと

『日本人の4割​が老後準備資金0円』第2章より

教育、退職、介護で身動きできず

こうした世帯の課題を、ちょっと具体的な家族を想像しながら考えてみましょう。

たとえば、妻A子さんは38歳で2人目の子供を出産しました。ご主人のBさんは2歳年上の40歳です。ちなみに、2012年の平均初婚年齢は夫30.8歳、妻29.2歳なので、1.6歳の差がありますが、これをそのままこのご夫婦の年齢差にしてみました。ちょうど2人目の子供を結婚10年目に授かったことになります。なお、1人目の子供は現在4歳だとしましょう。

Bさんが60歳で定年になる時に、この2人目のお子さんはまだ20歳。大学2年生か、3年生。4年制大学でもあと1~2年、修士課程まで行くと考えると、あと3~4年は授業料がかかることになります。自分が定年退職の時に、最もお金のかかる大学就学中になるわけですから、子供の教育費と自分の退職後の生活費が一度にのしかかってきてしまいます。

問題はそれだけにとどまりません。このご夫婦の親の世代は、1970年代の平均出産年齢27~29歳から逆算すると現在60代後半ですから、孫が20歳になる頃には80歳後半となっています。いわゆる介護適齢期といっていいでしょう。とすると、Aさん、Bさん夫婦の20年後は、子供の教育費と自分の退職、そして親の介護が同時に必要となる懸念のある世帯といえます。3つの選択肢の前でうろたえる「トリレンマ世代」ということができます。

トリレンマ(Trilemma)世代とは
フィデリティ退職・投資教育研究所が命名。ジレンマ(Dilemma)が2つの選択肢/前提がともに受け入れられない状況を指すのに対して、トリレンマは一度に解決できない3つの選択肢/前提を抱える状態を指す。ここでは、トリレンマ世代を子供の教育、自分の退職、親の介護と3つの課題に一度に直面し、すべてを解決できない可能性を抱えた世代として定義している。

従来、海外では現役世代のうちに子供の教育費と親の介護の負担に挟まれた世代を「サンドイッチ世代」と称して、その2つの負担が同時にのしかかることを懸念していました。今、アジアでも同様の指摘が出ています。しかし、今後の日本では、それに自分の退職も重なる「トリレンマ世代」へとさらに負担を増して襲いかかってくる懸念があります。

ちなみに、母親が35歳以上の新生児が毎年26万人ほど生まれています。すなわち、毎年「トリレンマ世代」となり得る世帯が26万世帯生まれているわけで、10年もすると200万世帯を大きく超える潜在的な「トリレンマ世代」が存在することになります。けっして少ない世帯数ではありませんから、しっかりと対策を考えておく必要があります。

もちろん、子供の教育、自分の定年、親の介護といったことはどの時代でも、どこの国でも起きることです。ただ、トリレンマ世代の問題は、それらが一気に一時期に集中して押し寄せてくることにあります。それぞれひとつだけでも大きな資金負担でたいへんなのに、それが一気に来るとしたら、1+1+1=3ではなく、4にも5にもなってくるのではないでしょうか。

税制支援も求められる教育費

トリレンマ世代のための資金対策は、と考えても、「ウルトラC」の方法はありません。できるのは、そうした事態を認識して、早目に手を打つことだけでしょう。
まず子供の教育費ですが、これまで多くの家庭では、小学校から大学までの15~16年間の学費は塾代など学校教育費以外も含めて親が負担していました。多くの人はそれを当然と思うかもしれませんが、そこから少し視点を変えるべき時代に来ているのではないでしょうか。すべて親が負担するのではなく、子供自身が少しでも負担できるように、意識だけでなく、そうした制度を作っていく努力も必要なのではないでしょうか。

たとえば奨学金や教育ローンなどを活用し、子供自身が自分の教育費の一部を負担することも考えていくことが大切です。就職後に子供自身が返済をすることで、親の世代の負担を軽減する対策です。米国などでは自分の学費は自分で稼ぐといった考え方が浸透していますから、日本でもそうした自立した子供が育つことは評価できると思います。

教育資産形成支援策の導入も

また、親が子供の教育資金を積み立てるための税制上の支援も求められます。

2013年4月から、祖父母による孫世代への教育費負担が1,500万円まで非課税となる制度が2015年末までの期間限定でスタートしました。思った以上に人気です。ただ、英国には「Junior ISA(ジュニアISA)」といった子供のための非課税投資制度が、米国には「529 Plan(529プラン)」といった教育費専用の税制優遇制度があります。こうした教育資金の積み立てに対する税制優遇などを日本に導入するのもいい方法でしょう。

今後、政府としてもトリレンマ世代に対する負担軽減のための措置を考えざるを得なくなるでしょう。少子化対策として大きな期待をかける分野ともいえます。制度を利用し、子供の教育資金を早い段階から準備することができれば、月々の投資(貯蓄)は少なくとも、時間をかけて必要な金額を用意することが可能になってきます。