女ゴコロが丸わかり!椰月美智子が描いたシビレル恋物語。切なくて、笑える――『恋愛小説』が文庫化

「恋愛」が「人生そのもの」となる瞬間

(注11)『どんまいっ』幻冬舎文庫

・・・・・・などと言いながらこの小説には「恋愛」の事しか描かれていない。美緒とサスケの恋愛以外にも彼らの周辺の人々の恋愛模様が「これでもか!」と綴られる。ありとあらゆる恋愛の形が描き出され、それぞれの恋愛に対して「わかるわかる」とか「それはありえない」などと読み手はそれぞれ感想を抱く。実はここがこの小説の恐ろしい所だ。

つまり、この小説は読む者の「恋愛遍歴」を照射するのだ。この小説を読んでいる時にあなたの胸をよぎる様々な思いをゆめゆめ人に語ってはならない。それはとりもなおさず自分がどんな恋愛をしてきて、今どんな心持であるのかを他人に知らしめてしまう事になるからだ! 因みに私がどんな思いを抱いたかというと・・・(注8)おっと、それは内緒だ。但し、初読と再読の時は全く読後感が違った、という事だけは示しておこう。

(注12)『かっこうの親、もずの子ども』実業之日本社

読む者の恋愛遍歴を照射する―果たして何故そんな事が起こるのか。それは恐らくこの物語の中で起こっている恋愛沙汰が、多かれ少なかれ、著者自身に実際に起こった事実であるからではないのか。

「恋愛」イコール「人生」ではないけれど、「恋愛」が「人生」そのものになってしまう時期が人間には必ずあるのだ。著者はその事を小説でどうしても書いておきたかったに違いない。

小学5年生の少年の夏の日々を描いた『しずかな日々』(注9)、三姉妹とその叔母の交流を描いた『るり姉』(注10)、中学生3バカ男子が親となり中年となる過程を描いた『どんまいっ!』(注11)等何気ない日々の営みの中にこそ素敵なものがある、という作品が中心をなす椰月美智子の著書の中でひたすら恋愛についてのみ綴った『恋愛小説』はそのジャンル、内容とも異質、異端、異貌で、浮いている、とさえ言えるかもしれない。

(注13)『その青の、その先の、』幻冬舎

しかし著者にとってはこの恋愛の清い部分から汚い部分までの全てを描く小説はまさに“描かねばならなかった”小説であるのだ。ここで自らの恋愛観をトコトン描き尽くしたからこそ、著者はその後、子育て小説の傑作『かっこうの親 もずの子ども』(注12)を、そして、人生と恋愛の更なる煌きを描いた大傑作『その青の、その先の、』(注13)を物することが出来たのだ。

最後に『恋愛小説』に対する椰月さん自身の言葉をいただけたので紹介しておきたい。

「私も、読み返してみて、非常に興奮いたしました。やっぱりおもしろいなあ、自分の作品のなかで一番好きだなあ、と改めて思いました」

自分の作品に対してこう言い切れる作家は信用できる。

椰月さん、私もこの作品大好きです。オープニングからエンディングまで(そう、この小説、ラストがまた凄くいいんです!)魂が揺さぶられっ放しで、頭の芯までジ~ンと痺れるような熱い思いをさせてくれた読書体験を、私は一生忘れる事はありません!

* * *

椰月美智子(やづき・みちこ)
1970年生まれ。神奈川県小田原市在住。2002年、『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。'07年に『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。他の著書に『シロシロクビハダ』(講談社)、『かっこうの親 もずの子ども』(実業之日本社)、『その先の、その青の、』(幻冬舎)『消えてなくなっても』(KADOKAWA)、『坂道の向こう』『みきわめ検定』『枝付き干し葡萄とワイングラス』『ガミガミ女とスーダラ男』『市立第二中学校2年C組 10月19日月曜日』『恋愛小説』(以上講談社文庫)、『るり姉』(双葉文庫)、『どんまいっ!』(幻冬舎文庫)、『フリン』(角川文庫)、『ダリアの笑顔』(光文社文庫)など。
(撮影/但馬一憲)

椰月美智子・著
『恋愛小説』
講談社文庫/税別価格:940円
⇒Amazonはこちら
⇒楽天ブックスはこちら


溶けるほど甘くて 最高に辛口なラブストーリー
大好きな彼はいるけど、
あの男の子も好き――
超リアル「生きた」恋愛大河小説

23歳、未熟で身勝手で生々しくて、だからこそリアル。『るり姉』『しずかな日々』『その青の、その先の。』――心の襞を描く作家・椰月美智子が贈る「生きた」恋愛大河小説。