篠崎史紀 第3回 「イヴリー・ギトリスとトーマス・クリティアン、2人の巨匠に師事して」

島地 勝彦 プロフィール

立木 シマジの魂胆がみえてしまった。「おれもシバレン先生、今東光大僧正、文豪開高健に淫してずーっとおそばで仕えていました」といいたいんだろう。それは省略しろ。読者も飽き飽きしているぞ。

シマジ でもタッチャンともう40年以上もこうして一緒に仕事していることをマロさんに自慢したいなあ。

立木 おれたちの腐れ縁は秘密にしているからいいんだぜ。みんなにしゃべったらもうお仕舞いなの。

シマジ 了解。

篠崎 余談ですが、ギトリス先生はわたしと話すときはドイツ語でしたが、他にも英語、フランス語、イタリア語、ヘブライ語、スペイン語、ラテン語、なんでもござれでした。しかも洒脱もいいところで、燕尾服も普通ならケースに入れて運ぶところをクルクルっと巻いてボストンバッグに入れていた。クシャクシャになった燕尾服を広げて「マロ、これでいいかな」ととぼけて訊いてきたりするんです。

先程もいったように、わたしはイヴリー先生のそばにほとんど一緒にいたので、先生のプログラム曲はすべてわたしの練習になりました。ある日「今日からぼくらは友達です」と先生からいわれたときは、感極まりましたね。

立木 きっとシマジは「おれも今東光大僧正に『シマジはおれのいちばん若い親友だ』といわれました」と自慢したいんだろうが、ここはぐっと我慢しておくんだ。そのほうが値打ちが上がるぞ。

シマジ 了解。

篠崎 いつだったかイヴリー先生が来日したとき、音楽雑誌のインタビューで「わたしの日本人の弟子には古澤巌と篠崎史紀がいる」と答えているのを読んで目頭が熱くなりました。

イヴリー・ギトリスは最後のヴィルティオーゾ・ヴァイオリニストでした。もう彼のような技巧派は2度と出てこないでしょうね。あれだけの独特な音程、リズム、フレーズ感で弾いて、素晴らしい音楽を奏でられる人は、イヴリー・ギトリスをおいてほかには知りません。

セオ 帰りに山野楽器に寄ってCDを買ってみます。実際に聴いてみたくなりました。

〈第4回につづく〉

 

篠崎史紀(しのざき・ふみのり) 1963年福岡県生まれ。3歳より両親からヴァイオリンの手ほどきを受け、その後、江藤俊哉に師事。1979年史上最年少で北九州市民文化賞を受賞。高校卒業後はウィーン市立音楽院に留学し、トーマス・クリスティアン、イヴリー・ギトリス、また室内楽をバリリ・クァルテットやアマデウス・クァルテットのメンバーに学び、1982年ウィーン・コンツェルトハウスでデビュー。1983年ヴィオッティ国際音楽コンクール室内楽部門(デュオ)第3位、1986年ボルドー国際音楽コンクール銀賞受賞。1988年ウィーン市立音楽院修了後、群馬交響楽団コンサートマスター就任。1991~97年読売日本交響楽団コンサートマスター。1997年コンサートマスターとしてN響に入団。東京ジュニアオーケストラソサエティ、iichikoグランシアタ・ジュニアオーケストラの芸術監督、WHO国際医学アカデミー・ライフハーモニーサイエンス評議員も務める。
島地勝彦 (しまじ・かつひこ) 1941年東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任。現在は、コラムニストとして活躍中。主な著書に『乗り移り人生相談』『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』(ともに講談社刊)など。Webで『乗り移り人生相談』『Treatment & Grooming At Shimaji Salon』を連載中。最新刊『Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である』(阪急コミュニケーションズ)が好評発売中!

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