篠崎史紀 第3回 「イヴリー・ギトリスとトーマス・クリティアン、2人の巨匠に師事して」

島地 勝彦 プロフィール

篠崎 このジョークはウィーンの人たちの音楽に対する見識を表しています。あちらでは奏者も聴衆もみんな一流で耳が肥えているので、批評家の仕事というのは非常に際どいところで成り立っているんです。

シマジ 意味深なジョークですね。

篠崎 ウィーンの音楽批評家たちは演奏会を「自腹」で聴きに行くんですよ。日本では「招待券」が送られてきて、おまけにおクルマ代までもらって書いている人がいると聞いています。そんな人たちを音楽批評家と呼べるでしょうか。

セオ 日本の書評家にもいえますね。本が送られてこないとちゃんと読んでくれないそうです。文化的なちがいが大きい感じがしますね。

篠崎 ウィーンの批評家には、指揮者がうまく振れたのか、オーケストラがうまく弾けたのか、厳密にみている人が多いんです。細かく読んでいくと、これは指揮者を批評しているのか、オーケストラをけなしているのかがちゃんとわかるように書いている。

客観的だから、現場の状況がきちんと伝わってくる。善し悪しについて一言も書いていないのに、正しい批評ができている。まるでオーケストラのなかの人が書いているのかと思わせるほど内情をよく把握しているんですよ。

ウィーンの批評家たちはオペラ専門、室内楽専門というように分化されていますから、より詳しくみられるのでしょう。この歌手ならこの批評家、というケースだってあります。そのように専門化されているからこそ食べていけるし、彼らの署名記事の中身によって聴き手がさらに盛り上がるのです。

日本にもせっかくオペラ専門のホールができたのですから、そろそろオペラ専門の評論家にも出てきてもらいたいですね。

立木 日本の場合、チケットが割高ということはないですか?

篠崎 一般的にいってヨーロッパのチケットが日本に比べて安いということはないですよ。ドミンゴやカレーラスのロイヤルシートは向こうでも5、6万円します。ただ、昔の立ち見料金は100円ぐらいでしたから、学生にとっては天国でしたね。売れ残ったチケットは当日学生券として売り出されていました。