幼い頃から友だちがいたことはなかった。
両親からも、顔をそむけられていた。
36年間、女性にも無縁だった。
何度も自殺を試みた。
そんな鈴木誠と社会と唯一の繋がりは、洋楽専門誌でのマニアをも唸らせるビートルズ評論だった。その洋楽専門誌の撮影で、鈴木は美しきモデル、美縞絵里と出会う――。
「切なくて怖くてたまらない」「悲しい純愛」「超細密なサスペンス!」と衝撃を与えたミステリー、『ラバー・ソウル』がついに文庫化。
ビートルズの名アルバム「ラバー・ソウル」をベースに描かれたこの小説。
サスペンスにおののき、人の欲望に絶望し、衝撃に身を震わせ、切なさに心が震える。そして、ビートルズを知って読むと、さらに面白くなる。
何度も読むとそれだけ面白くなる、井上ワールドの真骨頂にいざ――!
井上夢人
――私はビートルズにあまり詳しくないにも拘わらず「イン☆ポケット」で『ラバー・ソウル』の連載担当を務めさせていただきました。生粋のビートルズファンからしたら許せないような担当編集ですよね。でも、もしかしたら私レベルの方は少なくないのかも! ということで、ポール・マッカートニーの来日に合わせ、改めて井上さんに「ぼくとビートルズとラバー・ソウル」というテーマでなんでも聞いてしまおうと思っております。今日は5月17日、なんたってポール・マッカートニーのコンサートの日ですしね!
井上 ビートルズのことなら何時間でも話しますよ。連載の原稿書いてないけど来ちゃいました。
――え、連載って「逆立ちするクロノス」ですよね。そ、それは小説現代のWに怒られるんですが・・・・・・。まあでは急ぎ聞きましょう! まずは井上さんとビートルズとの出会いについて教えてください。
井上 忘れもしない1964年、中学1年生の夏休み。「A HARD DAY'S NIGHT」、日本でのタイトルだと「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」という映画が公開されたんです。そうしたら学校から禁止令が出まして。「ああいうものを見てはいけません」と。東京中の学校でお達しがあったと思いますよ。ロックは悪の権化と言われていましたからね。
――悪の権化・・・・・・。井上さんは当時ロックはお好きだったんですか。
井上 ぼくはあんまり興味なかったんですよ。ポップスも聞いてなかったし、少年合唱団に入っていたくらいですから。
――あ、ご実家がキリスト教会でしたよね。井上さんはボーイソプラノだったとか?
井上 ソプラノのもういっこ上のパートだったくらいです。天使の歌声ってやつね(笑)。NHK「みんなの歌」の「おなかのへる歌」にはぼくの声が入ってますよ。
――えええええっ! 「どうしておなかがへるのかな」って、あれは井上さんの声だったんですか! しかしそんなボーイソプラノ君がなぜビートルズに?
井上 ぼくもとくに興味はなかったんですが、学校で禁止されてたでしょ? 同級生でどうしても観に行きたいと思っているヤツがいたんですよ。だれか共犯者をつくろう、井上なら、って白羽の矢を立てられた。夏休みだしいいかと思って付き合ったけど、行ってみてものすごく後悔した。