いきなりネイティブに! おどろきの「ストレッチ式発声術」とは?

『「ネイティブ発音」科学的上達法』
藤田 佳信 プロフィール

 実は,“英語らしい声” を出すトレーニングは,そんなに難しいものではありません。

①まず,ストレッチ式発声法で英語の声の中心(あるいは土台),英語のリズムの素をつくります。

②それができたら,次のステップへ進みます。全体としてまとまった意味のある音声のかたまり(私は「思いのまとまり(thought group)」と呼んでいます)を発話の基本単位と考え,それを英語らしく響くように発音・発声・発話する技術の習得をめざします。

 本書で提案するストレッチ式発声法とは,英語音声への実践的なアプローチの仕方です。

 英語の音声を獲得するためには,呼吸・発声・調音器官をそれぞれ連動させ,日本語を話すときにはほとんど使わない,種々の筋肉を伸ばしたり縮めたりする「ストレッチ」(stretching-out)を行う必要があります。そのために,基準となる3つの母音を中心に発声トレーニングを行います。誰でも,そしてすぐに効果が実感できる発声法で,私は「ストレッチ式」と呼んでいます。

 ストレッチ式発声法では,基準となる強い母音をつくるために,発音に必要な筋肉を大げさに働かせます。活発な筋肉活動によって, 音( 音質)の超明瞭化(hyperarticulation)を図ります。要するに,筋肉に音をつくる動きをしっかり覚え込ませ,誰が実践しても確実にその音が出せる技術を習得するのです。話す技術を身につけることで,同時に聴きとり能力を高める効果も備えています。

 本書の中で,私は「ストレッチ」という言葉を,互いに関連する2つの意味で使っています。

(A)発音・発声・発話に必要な,種々の筋肉のストレッチ・アウト

(B)ストレッチに用いる基準母音,強い音節の核になる強い母音などのストレッチ・アウト(引き伸ばし発声)

 強い基準母音をストレッチ・アウト(引き伸ばし発声)する際,学習者には,心身ともに負荷がかかります。第一に,呼吸器官への負荷が大きくなります。吐き出す呼気(egressive airfl ow)の量と呼気圧,呼気活動の持続時間が,大いに増加するからです。ストレッチ式によって,意識的に大げさな呼気活動のトレーニングを行うわけです。長期間継続的にトレーニングすると,呼気活動に関わる,横隔膜筋や胸郭の内肋間筋などが鍛えられます。

 本文中では,ストレッチ式発声法とあわせて,ペーパーバック(ネイティブ・スピーカーがふだん読んでいる安価な英書)の音読をおすすめしたいと思います。ペーパーバックの音読は,英語の息の吐き方(息の調節技法)の工夫を試す適切な機会であり,息を吐き出し続ける体力づくりに大いに役立ってくれるからです。

 ところで,(B)のストレッチ・アウト(引き伸ばし発声)は,母音の超明瞭化と言い換えることができます。育児期の母親など,大人が乳幼児向けに使うことばである「IDS」(infant-directed speech)の特徴の1つに「母音の大げさな明瞭化」があり,乳幼児にことばの獲得を促すために行われる,と考えられています。

 日本語を母国語とする私たちには,英語による幼児期のIDSの体験がありません。私は,ストレッチ式発声法が,母音の明瞭化をめぐり,IDS の代役を務めてくれると期待しています。