樹林伸×佐渡島庸平(後編)「他の作品にはない個性、サムシングエルスがヒットの火種」

先輩編集者に学ぶ!

樹林 読者が『なじみ』を感じてくれるようになるタイミングって、枚数じゃないと思うんです。24日間という時間が用意されていて、そのうち1日だけ、24時間ぶっ続けで会ってる人がいるとするでしょ? それと、毎日1時間だけ、24日間連続で会う人がいる。面会してる時間はどっちも24時間だよね。でも、仲良くなるのは絶対毎日会った方なんですよ。

なぜかっていうと、そいつのことを考える時間が、会ってない間にも1日の中で何十分かあるはずなんだよね。それがあるかないか、その差ってじつはすごく大きいんです。

マンガも同じ。1ヵ月読むとちょっと好きになる、2ヵ月読むと普通に好きになる、3ヵ月読むと大好きになる。それは単純に分量の問題ではないんだよね。「一挙掲載100ページ!」って、単純に分量だけを考えれば、いつやってもいいような気がするよね。でも、1ヵ月めだとすべって、3ヵ月めだとウケるということが普通にあるんだよ。たぶん、人間の体内時計の問題だよね。

「いくら時間を割いてもいい」と思える新しい作品をやってみたい

佐渡島 作品はどうしても外しちゃうときがあるじゃないですか。樹林さんも外しちゃったな、ということがあったんじゃないかと思います。ことに、社員で編集者をやっていたときには、外すこともあったんじゃないかと。

樹林 たとえば『艶姿純情BOY』(藤沢とおる)という作品は、コミックス4巻で終わってますね。人気も下がってきてしまったし、編集長にも好かれませんでした。要は「やめろ」って言われたんですよね。「まあいっか、次のやれば」と思いました(笑)。

佐渡島 当時、お仕事のスタイルとしては、マンガ家さんについて構成なさっていたんですね?

樹林 そうですね。だからクレジットを入れるとすれば、原作じゃなくて原案協力です。

佐渡島 原作というかたちで文章を書きはじめたのは会社をやめてからですね?

樹林 まあ社員時代から書いてもいましたが、基本的には、文章で伝えるのではなく、横についてやった方が漫画はいい作品ができると思っています。マンガ家はメモを取りながら話を聞いてくれるし、自分からアイデアも出してくれる。ただ、それをやると時間がかかってしまうんですよ。書いた方が時間がかからないんです。早いときであれば、書くだけなら3時間あればできます。締切に間に合うのなら、いつ書いてもいいというメリットもある。書いたほうがたくさん生産できるのは間違いないんです。たとえば、『GTO』の打ち合わせはネームだけで1日かけてたんですよ。そんな贅沢な時間の使い方は、今はできなくなっていますね。

佐渡島 横についてやった方が、作家の力量が生かされるわけですね。

樹林 とくに、藤沢とおる(『GTO』の作者)みたいに才能のある作家だと、アイデアがばんばん出てくるんですよ。コミュニケーション能力もすごく高いし。それを拾いながら作っていくんだから、間違いなくいいものになります。横についていれば、こちらの伝え方も身振り手振りとか、立ったり座ったりとか、いろんな方法をとることができる。あと、こちらの「勢い」も伝えられる(笑)。

佐渡島 今、そういう打ち合わせをしている作家さんはいますか?

樹林 うーん、「こいつならば」という作家が出てきたら、ぜひやりたいんだけど、なかなか……。

佐渡島 ベテラン作家はどうですか?

樹林 藤沢くんとか是非やりたいし、「やろうやろう」とは言ってるんだけどね、実現はしてないです。「やろうやろう詐欺」になっちゃってます(笑)。

佐渡島 では今、連載されている中で、「これぞ生涯の作品だ」と思っている作品はあるんですか?「この作品のためならどんなに労力をさいても惜しくない」というような。

樹林 うーん……『金田一少年の事件簿』は大好きな作品で一生やりたいと思っているけど、もう長くなってるし昔はともかく今は、「週の大半を『金田一少年』にかける」ということはできそうにないですね。「これやるのメッチャおもしろいな」「いくら時間を割いてもいいな」そんなふうに最低2年は思い続けられる、新しい作品をいつかまたやってみたい。