樹林伸×佐渡島庸平(後編)「他の作品にはない個性、サムシングエルスがヒットの火種」

先輩編集者に学ぶ!

佐渡島 「マンガボックス」だと、人気もあるし、読まれているんだけど、コミックスは売れないという作品もあるでしょう。

樹林 それはあります。雑誌でもありますよ。毎週のアンケートはすごくいいのに、コミックスは売れないという作品が。結局、DL数とかアンケートとか、あまり気にしちゃいけないんだ、ということなんですよ。「キライなんだけど読んでる」とかあるからね。DL数とかアンケートの順位とかって、視聴率に近いものなんだと思っています。

金田一少年の事件簿』なんて、ずっと前にはじまったストーリーが3ヵ月後に完結するんですよ。そんなの、覚えてるわけないよね。3ヵ月前って言ったら、オレでも「ずっと前」だと思うし、それが普通の感覚だと思う。

当然、雑誌での人気はよくないんだけど、コミックスで買ってる人はたくさんいる、という作品だってあるんです。数字を参考にするのは大切だけど、その意味するところをちゃんと理解していないと危険だな、と思います。

アイデアにはクールダウンが必要

佐渡島 今、樹林さんの中で、10本以上の作品が企画として動いてるわけですが、その発想のポイントをお話しいただきたいのですが。

樹林 うーん……たとえば『神の雫』なら、普通に呑んでるところからスタートするよね。酔っ払ってくると、うまいものは何かにたとえたくなるじゃない。それは女性だったり、自然の美しさだったり、人それぞれだと思うんだけど。それって、マンガになるんじゃないの? と思ったのがはじまりですね。「マンガにしよう」と思ったとき、タイトルが降ってきた。

佐渡島 企画したものすべてが作品になるわけじゃないですよね。ヒットするものは当然ありますが、ボツになっちゃうアイデアもある。その違いはどこにあるんですか?

樹林 人にアイデアを話すと、たいてい「おもしろいね」って言うんだよ(笑)。でも、本当におもしろいと思ってるかどうかは、顔に出るよね。そういうところは見るようにしています。あと、思いついたら、しばらく放っておく。時間が経ってもやりたくなるのは、本当にやりたいものなんだよね。そうじゃないのはボツ。要は、クールダウンの時間が必要なんです。

アイデアを思いついた瞬間というのは、そのアイデアにたいして、非常に強い思い入れを持っているから、実現したいわけだよね。だから、時間が経ってもまだそう思ってるがすごく重要だと思います。

恋愛と同じでさ、瞬間的にはとんでもないの好きになったりするんだよ。なんでもクールダウンの時間が必要なんです(笑)。

1日24時間より、24日1時間会うほうが好きになる

佐渡島 マンガ編集者はマンガ家と雑談すべきだと言いますよね。その中で、「いい雑談」「悪い雑談」それぞれあると思うんですけど、どういうのが「いい雑談」だと思いますか?

樹林 本筋とまじっちゃダメだなあ、とは思います。『宇宙兄弟』つくってて、マンガ家と宇宙の雑談してちゃダメ。それだと、幅がでない(笑)。

佐渡島 わかりやすいですね(笑)。雑談って難しいですよね。どのぐらいの頻度で、どんなタイミングで入れたらいいか、まるでわからない。

樹林 それは難しいですよね。ようは相手との距離感です。なじんでくれば自然にでてくる。なじむことが大事というのは、笑いの感覚なんかもそうで、吉本の新人が出てきてギャグやっても、まるで笑ってくれなかったりする。でも、ベテランが出てくると、お約束でおもしろくないのに大爆笑してしまったりする。なじみが出てくれば、みんな笑うんですよ。

佐渡島 マンガもどこかに笑いの要素が入ってるべきだと思うけど、そこを見つけるのは大変だと思います。