樹林伸×佐渡島庸平(後編)「他の作品にはない個性、サムシングエルスがヒットの火種」

先輩編集者に学ぶ!

佐渡島 では、マンガは短くして、話が早い方がいいと思いますか?

樹林 いや、かならずしもそうではないです。ようは密度の問題ですからね。当然、逆もあります。例をあげるなら、マンガ家の絵が細かくて凝っている場合はコマを大きくとってゆったりやる。

佐渡島 ああそうか、そういう作家は、絵の情報量が多いんですね。

樹林 そういうことです。いろんな意味で、密度のバランス感覚は大事にしますね。「読みやすいバランス」というのがあるんですよ。フキダシの大きさ一つとってもそう。一般に「文字は大きい方が読みやすい」と思われがちですよね。

佐渡島 そうですね。

樹林 それってケースバイケースなんですよ。セリフの多いマンガは、字が大きいと文字だらけになってしまう。かえって「読みにくいマンガ」になっちゃうんです。

むしろそういう作品では、文字を小さくした方がいい。つまり、フキダシを小さくして、絵のスペースをたくさんとる。そのことによって、読む人が「文字がたくさん入っている」とは受け取らないマンガができるんです。それは、マンガ家さんにも納得してもらったんですよ。文字量は多いままなのに、マンガを読みやすく描くためにはどうすべきか。読者の、人間の心理を知ることなんです。こういう点は、若い編集者に学んでほしい部分じゃないかな、と思います。

作品のキャラクターや世界観に愛着を持たせる工夫が必要

佐渡島 樹林さんがマンガの企画を立てるときに、ある程度の発行部数は当然見込んでいると思うんです。その中からヒット作品は生まれますよね。

作品をヒットさせるために、なにが入ってないといけないと思いますか? これまでお話いただいた、わかりやすいこと、重複がないことはとても大事だと思うんですが、それだけでは絶対ダメじゃないですか。売れるために大切なことはなんだと思いますか?

樹林 それはやっぱり、サムシングエルスなんだと思います。ストーリー、アイデアを伝えるために大切なことってたくさんあるけど、それだけじゃない何かもあるんですよ。それをどう入れていくのかということだと思います。

それは作品によって全然ちがいます。個性って、ちょっと脇道にそれたりしたときに生まれてくるでしょう。それと似てると思うんだよね。

必要なことしか伝え合わない人間関係って、決して長く続かないよね。人間の魅力は、そうじゃないところに感じられる。それと同じように、キャラクターとか世界観に、愛着を持たせる工夫が必要なんだと思います。あともうひとつ、似たような作品、代替商品がたくさんあるような作品は、やはりダメだと思います。

数字が意味することを理解しないと危険

佐渡島 雑誌や単行本で読む際には、左ページの役割、右ページの役割、それぞれありましたよね。

樹林 そうですね。決められたページ数でストーリーを語らなければならないときも、「これは左だから削らない」「右ページだから削る」ということがありました。

佐渡島 今、「マンガボックス」をやられてどうですか?  データで読むぶんには、右とか左とか、あまり関係ないですよね。

樹林 とくに意識して「変えた」というのはないんです。というのも、最終的に紙のコミックスにすることを考えて作っているから。とはいえ、見開きはずいぶん減っていると思います。紙の雑誌みたいな効果がなくなっているせいですね。