[野球]
上田哲之「DeNA・中畑監督と東海大四・西嶋投手を結んでみる」

スポーツコミュニケーションズ

スローボールに表現されていた可能性

 さて、甲子園の話題を続けよう。茫然と眺めていて、一気に目が覚めた試合がある。8月14日の東海大四-九州国際大付戦である。もうおわかりですね。今夏の最大のヒーロー、東海大四の西嶋亮太投手である。一応、注釈しておけば、九州国際大付は、強力打線で全国に名を馳せる優勝候補の一角であった。これに1回戦で当たった東海大四のエースが、身長168センチの西嶋投手である。彼はテレビカメラが追い切れないほど高々と上空に放り投げる超スローカーブで、観る者の度肝を抜いた。

 ちょっと、振り返ってみる。4回裏。九州国際大付の攻撃は3番・古澤勝吾から。
①超スローボール ボール(まさに真上に放り上げるようなボールは、ゆっくりと、ど真ん中に構える捕手のミットに舞い降りた)
②アウトロー スライダー 空振り
③アウトロー ストレート 空振り
 やはり、超スローボールの効果か。外角低めについていけない。ただし、古澤もさすがプロ注目の打者と言われるだけのことはある。この後粘って、6球目のアウトローを、いい当たりのセンターフライ。

 続くは4番・清水優心。この人もプロ注目のスラッガーである。
①アウトロー スライダー ボール
②アウトロー ストレート ストライク
③中くらいの山なりのスローカーブ ボール
④アウトロー スライダー 空振り(やはりスローカーブを見せられて、力むのだろう)
⑤アウトロー ストレート 見逃し三振!

 さらに次の打席。6回裏。3番・古澤には初球、2球目と、2球連続して、天高く投げ上げた超スローボール(ボール)。3球目、インローのストレートは空振り(力むんですな、やはり)。4球目、アウトローのスライダー(ボール)の後、5球目のストレートは外角高めの明らかな(西嶋投手には珍しい)失投で、二塁打。続く4番・清水には、初球、インハイのストレートを完璧にとらえられて、レフトオーバーのタイムリー二塁打。1失点。これは、清水がうまく打った。しかし、やはり、観る者は彼の超スローボールに目を奪われたのである。まさか、という可能性をマウンドで表現してくれたのだから。

 もうひとつ言いそえれば、彼はスローボールを3種類、用意していた。いわゆる普通に山なりに落ちるスローカーブといえる軌道。「小山型」としておきましょうか。ここまでは投げる投手はいる。次いで、上空2メートルくらいの山型の軌道をなすスローカーブ。「中山型」ですね。で、三つめが、7~8メートルは投げ上げているのではないかという、超超スローボール。「大山型」としましょう。4回に清水に投げたのは「中山型」だった。4回の古澤への初球と6回の2球連続は、「大山型」である。忘れてならないのは、この「秘球」を、彼はプロ注目の3、4番打者に集中して放っていることである(9回は、疲れたのか勝ちを意識したのか、「中山型」を連発していたけれども)。

 168センチの小兵、ストレートはだいたい135キロ、スライダーは121~123キロという投手が、プロ注目の大型スラッガーをねじ伏せようとする時、この発想を表現できたことが素晴らしい。ちなみに超スローボールはすべてボールと判定された(「大山型」と「中山型」は)。しかし、4回裏、古澤への初球の超スローボール大山型はストライクだったと思う。審判もわかったはずだ。うっと一瞬間があってボールとコールしていた。あのボールをストライクとコールする勇気、あるいはコールできるような、審判を取りまく日本野球の文化土壌がなかったのである。