[パラリンピアンの挑戦]
高桑早生、上昇気流に乗り始めたスプリンター

スポーツコミュニケーションズ

つかんだ新義足への自信

今年3月に替えたオズール社製の義足。重心を乗せるポイントをつかむのに苦労した

「いつでも出せるくらいの状態にあった」昨シーズン、高桑はレースでは一度も13秒台を出すことができなかった。13秒96の記録を出したのは11年9月のジャパンパラ競技大会。それから約3年間、一度も14秒の壁を破ることができずにいた。だが、今年5月の記録会で13秒98をマーク。高野大樹コーチの言葉を借りれば、3年前の「出してしまった」記録ではなく、「完全に彼女自身が出した」真の13秒台だった。

 止まっていた時計の針が動き出したかのように、高桑はそれ以降、順調にタイムを伸ばし続けている。6月の日本選手権では日本記録にあとわずか0.02秒に迫る13秒86をマーク。さらに7月の記録会では一気に13秒69にまで伸ばした。それは日本記録を0.15秒上回る、約3年ぶりの自己ベスト更新の瞬間だった。

 この時のレースを高桑はこう振り返る。
「6月頃から、いつ日本記録を出してもいいという状態ではありました。ただ、その時は特に記録を狙っていたわけではなかったんです。その前の関東障害者陸上選手権(7月5日)ではあまりいい走りができなかったので、とにかく取り組んできたことをきちんと出そうということだけでした。だから気持ち的には楽に走ることができました。一番のテーマだった義足でしっかりと地面を押すという走りができたので、13秒8くらいかなという感触はあったんです。でも、まさか13秒69とは……自分でも驚きました」

 高桑ははじめ、好記録の要因は、2メートルの追い風に助けられたものだと考えていた。だが、後でレースのビデオを見ると、確かにいい動きをしていたのだという。義足側の接地が安定しているのを確認し、自身が新しい義足を使いこなし始めていることを確信したのだ。高桑は、またひとつ殻を破った自分を感じていた。

 これを機に、高桑は課題をシフトした。前述したように、これまでは新しい義足を使いこなし、いかに走力へと転換していくかをテーマとしてきた。何度も練習を繰り返すことで、義足のどの部分に重心を乗せれば、反発を生み出せるか、ようやくそのポイントをつかんだ今、健足側により意識を強く持ち始めている。ズバリ、テーマは「屈曲と回復」。接地してからの足首の動きと、地面を押した後の足首の戻しのスピードだ。

「膝関節と足関節をバネのようにして地面を押すというのが理想です。でも、私はもともと足首が硬いので、接地した後にそのまま足首が伸びてしまうんです。それでは、地面を押してから足首を戻すのに時間を要してしまう。足首がバネのように軟らかい動きができれば、足首の角度を小さくでき、素早く戻すことができるんです」
 ほんのわずかな動きのロスが、勝敗を分けるのだ。