篠崎史紀 第1回 「モーツアルトは宇宙人的な天才。ベートーヴェンはすべてが計算ずく」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ それは何歳のときだったのですか?

篠崎 はじめて路上で弾いたのは19歳でした。多分、不安だったんでしょうね。

シマジ やっぱりヴァイオリンのケースを前に置いて、そこにお金を入れてもらったんでしょう?

篠崎 そうです。自分の演奏に気を留めてくれる人だけが聴いてくれる。でも街なかの人たちは演奏を聴きに行くために歩いているわけではないので、呼び込むのは大変なんです。もしもそこで2,3人の人が足を留めてくれたら、自分はこのままヴァイオリンを続けてよい人間なんだろうという、まあ、実験みたいなものだったんですよ。

シマジ いつも同じ場所でやっていたんですか?

篠崎 いえいえ、あちこち旅行してはいろんな街でやっていました。自分の腕を試せるしお金も入るしで、一石二鳥だったんです。

シマジ ウィーンの街ではいつも同じ場所でやっていたんですか?

篠崎 やはり街のなかであちこち場所を変えてやっていました。当時は警察に登録しなくても自由にできましたからね。いまは警察に届けを出して証明書をもらわないとダメなんですが、むかしは自由に演奏してもいい場所が街のなかに何ヵ所かあったんです。

そういえば、一度だけ面白い経験をしました。人だかりができはじめ、悦に入って演奏していると、そこにたまたま学長が通りかかって、「君はここでなにをしているんだ!」と怒られたことがありました。ウィーンでは昼休みの時間は屋内で楽器の音を出してはいけないという決まりがあるんですね。だからぼくは「この時間は家で練習出来ないのでここで練習しているんです」と言い訳をしました。

シマジ 人生には偶然の恐ろしさって本当にあるんですね。道端で演奏している人はほかにも沢山いたんですか?

篠崎 結構いましたね。ヨーロッパ中の列車に乗り放題のチケットがありまして、それを利用して旅行中の演奏家が、その日の宿代を稼ぐために路上で演奏しているのをしょっちゅう見かけました。だからぼくも路上で演奏すること自体はまったく抵抗はなかったですね。