[障がい者スポーツ]
伊藤数子「選手強化、パラリンピック選手が本当に必要としているもの」

スポーツコミュニケーションズ

必要なのは競技専門の指導とスタッフ

 このギャップとはいったいどこから生じているものなのでしょうか。それは「障がい者スポーツ」というイメージから来ているのではないかと推測しています。例えば障害のある人がスポーツをする、と聞いて思い浮かべるのが、「介助者」や「完全なユニバーサルデザインの設備」の必要性という人も少なくないでしょう。確かにリハビリの場や、障がいの度合いによっては必要です。しかし、国の強化指定選手には、ほとんどの場合、介助者も完全なユニバーサルデザインの設備も必要ありません。実際、他のスポーツ選手と同じように、たったひとりで世界を転戦している選手はたくさんいるのです。

 そのような選手が今必要としているのは、障がいに関する知識を有する指導者ではなく、競技に関する高い専門性を有するコーチやスタッフです。そして自らの障がいにおいての専門医師は既に各々いますから、競技者として求めているのはスポーツを専門とした医科学的見地からのサポート。例えば、スポーツ活動において起こる傷害を予防するなどの医科学的支援。つまり、多くがオリンピック選手と共通しているのです。これは彼ら彼女らは障がい者スポーツをする人たちの中でも頂点にいるトップアスリートであることを起点にして考えれば、当然のことなのです。しかし、「障がい者である」ことから出発すると、無意識に特別の気遣いが働き、前述したようなパラリンピック選手が本来希望しているところまでに思い至るのが難しいのです。

 そういった意味からも、今回、当事者である選手自らが意見を発表したことは大きな意味があります。ビジネスの世界でもそうですが、既に出来上がっているものに対して評論することは容易なことです。例えば、政府が発表した計画に反対したり、建設された後の施設に不満を言ったりする。これは誰もができることでしょう。しかし、今回パラリンピアンズ協会はそうではなく、計画ができる前に、きちんと自分たちの意見を述べる道を選択しました。さらに、今後も選手の意見を集め、発表していくとしています。この真摯な姿勢は、実に清々しく、これからの成熟国家におけるパラリンピアンの姿が見えるようで、ますます目が離せないのです。

伊藤数子(いとう・かずこ)
新潟県出身。障害者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。1991年に車いす陸上を観戦したことが きっかけとなり、障害者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するため の「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障害者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障害者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。