ニュートン、アダム・スミス、ダーウィン…世界の偉才を産んだ「オックスブリッジの流儀」とは

オックスブリッジ卒業生100人委員会

オックスブリッジの流儀Ⅰ:世界最高の知のシェアハウス「カレッジ制度」

オックスブリッジはそれぞれUniversity of OxfordとUniversity of Cambridgeとして存在するが、実はUniversityという建物は存在せず、その実態は「カレッジ」と「学部」の集合体である。カレッジは、オックスフォード大学にはChrist Church, University College, Merton Collegeなどといった38個、ケンブリッジ大学にも同様にTrinity College, St. John’s College, King’s Collegeなど31個も存在している。学部は、日本の大学と同じく、法学部、経済学部、工学部などを指す。こうした「カレッジ」と「学部」の共存こそが、オックスブリッジ独自の教育の核となっている。

オックスブリッジにおけるカレッジとは、日本語で言えば「学寮」である。「学」だけでもなく「寮」だけでもないところがポイントで、その中で教育と生活の両方が行われる。学際的な場であることが特徴で、カレッジに所属する学生も教員(フェロー)も、学部にとらわれず、人文科学、社会科学、自然科学と学部横断的に集められている。各カレッジは私立であり、個々に独立している。個々のカレッジにはダイニングホール、チャペル、図書館があり、古いものは800年前、つまり鎌倉時代から存在している一方、戦後にできた比較的新しいものもある。

他方で、オックスブリッジに言う学部(faculty)とは、研究インフラの提供と対外的な大学代表としての活動を行っている組織で、専門的な知識が集結する場である。学問の基盤となる学部や研究所が置かれ、学部単位でのレクチャーやセミナーが行われる。カレッジは生活と教育の場所、学部は主に研究のための場所と思っていただければいいだろうか。

学生は、学部とカレッジの両方に所属し、それぞれ異なるコミュニティ(居場所)に所属することとなる。これこそが、オックスブリッジ独自の教育力の根幹をなす「カレッジ制度」である。カレッジ制度を通じて、多様なバックグラウンドを持つ学生・フェロー達と交流する機会が日常的に与えられる。即ち、学生は否が応でも「学際的」コミュニティと「専門的」コミュニティに直面するわけである。オックスブリッジでは学生は最初から自分の専門について学ぶのだが、この仕組みの中で、専門知識に加え、幅広い人脈と教養が普段から身に付く仕組みとなっている。

オックスフォード大学ユニバーシティカレッジのマスター(学長)バトラー卿主催のランチパーティーにて

オックスブリッジの流儀Ⅱ:徹底的な個人指導「チュートリアル」

では、カレッジの中では具体的に何が行われているのだろうか。その一つが、「チュートリアル」である(ケンブリッジでは同じものが「スーパービジョン」と呼ばれる)。この「チュートリアル」は、カレッジの中で大学の先生が学生を個人指導する教育方式で、今でも日本の大学や塾・予備校などで「チュートリアル」という言葉が使われていることとも無関係ではないと思われる。

チュートリアルでは、生徒が事前に与えられ取り組んだ課題について、教授と1~3人の少人数で議論を行う。この課題はエッセイという形をとることもあれば、学部によっては問題を解いてくるという形にもなる。議論の中では教授とともに課題を見直し、自分が導き出した解や考え方以外の物の見方や問題の解き方を追求する。課題に対する洞察が足りない場合や持論の展開が甘い場合はチューター(またはスーパーバイザー)から辛辣なコメントをもらうこともあるが、基本的には思考を解に縛らずに、自由に思考することに重きが置かれる。批判的ながらもしっかりと先人の歩みを追いながら新たな考察を導き出すそのプロセスは、日本の「守破離」の精神に通じるものがあるだろう。

こうして、オックスブリッジの学生は、チュートリアルという贅沢な手作りの教育を通じて、洞察力と対話力を身につけていく。そして、それを可能にしているのが、オックスフォードとケンブリッジが800年の歴史をかけて作り上げたカレッジ制度である。

次回は、学業以外の部分まで視野を広げ、残る2つの仕組みについて、オックスブリッジの流儀を紐解いていきたい。
 

篠原健(しのはら・けん)
ケンブリッジ大学修士(MBA)課程

1984年新潟県生まれ。新潟県国際情報高校、東京大学経済学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。財務省に入省し、政府の留学制度を利用して2年間英国に留学。伝統のリーダー教育と、大学時代の恩師の影響で経済学者ケインズに憧れてケンブリッジ大学修士課程に進学。カレッジはダーウィン・カレッジ。大学では、勉強の傍らディベート部ユニオン・ソサエティに所属し、毎週ディスカッションや演説の練習に励んだ。現在は、法務省にて経済犯罪を防止する国際枠組み作りに従事。
木村大輔(きむら・だいすけ)
オックスフォード大学国際開発学部(Queen Elizabeth House)大学院修了
1978年青森県生まれ。県立弘前高等学校、日本大学文理学部卒業。在学中ケンブリッジ大学(ペンブルックカレッジ)に留学。オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院、オックスフォード大学国際開発学部大学院(ユニバーシティカレッジ)修了。体操部・キックボクシング部に所属。外資系金融機関を経てコンサルタント・国際交流コーディネーター・講師として青少年育成、企業の海外進出支援等に携わる。現在(一社)グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)のメンバーとしてグローバル教育の浸透に務める。

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