海外で目にした「ハゲ」のブランド力! 「気に病む」日本人男性800万人のステータスを変えられるか

『なぜ世界でいま、「ハゲ」がクールなのか』第1回

その前にお断りが3つほど。

その1。この本は、ハゲの悩みに寄り添うタイプではない。なぜかと言うと、私はハゲがいけないことだとも、ハゲた人が弱者だとも思っていないから。

そんなことを言うと、お前は女で髪もいっぱいあるから、ハゲている者の悩みがどれほどのものかわからないんだ! なんて、しかられそうである。

その通り。私にはわからない。本人にはなれないからわかるはずがない。ただ、普通、ハゲの悩みは、そのせいで日常生活に支障をきたすというものではない。たいてい周囲の目に起因している。ところが、周囲の目と、自分が思い込んでいる"周囲の目"は同じじゃない。そこで、数ある周囲の目のうちのたった2つではあるけれど、周囲は案外こう思っていたりするものなのよ、とお伝えすることは無意味じゃないと思うのだ。

その2。言葉づかいについて。これはまさに、長年のハゲに対する誤解やら偏見やらが原因だと思うのだけど、「ハゲ」に代わる適切な日本語が見つからない。脱毛症、薄毛、禿頭など、あることはある。さらに専門的な医学用語も。ただ、どれも一般的じゃないし、今ひとつピンと来ない。

なので、ひんぱんに「ハゲ」「ハゲ」と繰り返すけれど、決してバカにしているのではない。髪の毛が乏しくなっている状態を端的に表す他の言葉を思いつかないだけなのである。

日本語以外の世界にも、言葉づかいの悩みはあった。

トッド・グリーン氏(イラスト:西田真魚)

英語でハゲはbald(ボールド)。この語感が悪すぎる、他に何とか言いようがないのかと、そんなことを書いているアメリカ人起業家がいた。トッド・グリーンさん。後ほどしっかり登場する、「ヘッドブレード」というスキンヘッド用カミソリを開発した人だ。22~23歳の時にハゲ始めたらしい。

「baldという言葉がずっと大嫌いだ。私にとって、baldは悪い言葉である。baldになりたい、なんて人がいったい何人いるだろうか。この言葉をポジティブな意味で使う人はほとんどいない。例えば、『あいつbaldなんだよ。だから君、あいつのことがきっと気に入るはずだ』とか言う人は普通いない。たいていは、『あいつのこと、気に入ると思うよ。あ、まあ、baldではあるけどね。だけどさ、おう、あいつが金持ちだってことも、言ったよな』、こんな風である(*1)」

語感。これはかなりどうしようもない。でも、特に悪い意味など込めず、声をひそめたり、発する時に辺りを見回したりせず、「黄色」「緑」とかと同じような感じで普通に使う人が少しずつ増えていけば、誤解や悪いイメージが解け、いつか前向きな意味をもつ、カッコいい言葉になるかもしれない。そんな日が来たら、すばらしい。そう願う。

それから、丸坊主の髪型を表す言葉も、ぴったりのいいものがない。カミソリで剃った、スキンヘッド状態の頭は英語で「shaved head」という。そのまま、「剃った頭」の意味。「shorn head」というのもある。スキンヘッドよりは毛が短く残っている髪型で、丸刈りに近いかもしれない。あるいは、最近だと「ベリーショート」の感じだ。

でも、日本語ではいずれも「坊主頭」。職業としてのお坊さんでなくても、そういう状態を「坊主頭」と呼ぶことになっている。ちなみに新明解国語辞典(7版)で「坊主」を引くと、まず「①(寺の住職である)僧」とあって、説明に「多く、軽い侮蔑を含意して用いられる」と書いてある。②に来るのが坊主頭で、「僧のように、頭に毛の無い人」とある。それから「茶坊主」の略、というのも⑤として紹介されていた。どこか、バカにしたような、決して立派な感じではない響きがあるように思う。このためか、ヘアスタイルの「坊主」にも、伝統的にカッコいいというイメージは伴ってこなかった。

それでも最近は、このヘアスタイルもようやく市民権を得てきた感がある。カッコいいニュアンスを込めて、カタカナでボウズと書いたりするようになったからだ。中には、bozeなんてアルファベット表記もある。モダンでクールな音響機器の名称と、ちょっと重なるところもあり、オシャレ。坊主頭(中にはかなり長めの丸刈りも結構あるけれど)に特化したヘア専門雑誌、「ボウズエクストリーム」なんていうのも登場している。

そういう風潮が出てきたことを考えたら、英語のshavedのことを、坊主頭、ボウズと言い換えても、それほど悪い印象じゃないかもしれない。ただ、まだまだ過渡期のようなので、念のためお断りしておきたい。

お断り、その3。この本で扱うのは、男の人が加齢に伴って経験するハゲ中心である。額と頭の境界のMが、どんどん上に上がっていったり、てっぺんの円が広がっていったりするおなじみのタイプだ。男性型脱毛症(AGA)と呼ばれているものである。

ハゲのタイプは他にもいろいろだし、女性のハゲもあるけれど、ここでは扱わない。最大の理由は、ハゲ人口で圧倒的多数を、男性の、この男性型脱毛症が占めていること。

男性のハゲの95%以上との指摘もある(*2)。最大派閥を占めるだけに、この男性型脱毛症に対する考え方が変わったら、ハゲの人の生き方、ひいては世の中がかなり変わる可能性大、と思ったからである。

男性ほど数が多くないとはいえ、女性にもハゲ、薄毛はある。男性型脱毛症に女性がなることもあるし、抗ガン剤治療などのため、髪を失い二重のショックに苦しんでいる女性も決して少なくない。