Photo by iStock

痛恨のジャンケンが、私を日本でも数少ない「火薬研究者」へと導いた

チョキが招いた「火薬」という天命

このたび講談社ブルーバックスから『火薬のはなし』を上梓することができた。

この本は、防衛(軍事)技術に一切、関わっていない人間が書いた、世界的にも珍しい火薬の本といえる。

 

私は独立行政法人産業技術総合研究所という産業の発展と安全を研究する研究機関で働いている。火薬類取締法という法律を所管する経済産業省の技術的な支援を行うのが私の研究室のミッションである。火薬はエネルギーを貯蔵できる素晴らしい化学物質であり、いろいろな産業で平和かつ有益に使われている。この本では、そういう平和利用と火薬のサイエンスという視点に重きをおいた。

ところで、私がなぜ、火薬という特殊な物質を研究するようになったか? それはジャンケンに負けたことによる。本当ならば、大気汚染/光化学スモッグの研究者になっていたはずだった。

私が育った静岡県浜松市は自然豊かなところだった。中学生の頃、東京に行く機会があり、東京タワーの展望台に上った。当時は光化学スモッグが社会的な問題となっており、東京の空はとても汚れていた。そこで、子供心に「この空をきれいにしてみせる!」と思い込んだ。

光化学スモッグPhoto by PhotoAC

その後、順調に東京の大学に進み、希望の研究室に配属になり、望み通りの研究ができるはずだった。しかし、大気汚染を卒論のテーマにできる枠は一人、これに対して複数人の希望者がいた。

そこで、私はジャンケンの戦いに負けたのである!

痛恨のチョキ! 人生は努力していても思い通りにはならないものだ。結局、卒業論文から博士論文まで火薬や爆発性のある化学物質の物性評価が研究テーマになった。幸いにも同じ研究テーマでここまでやれている。

チョキがもたらした運命だが、今では天命かなと思っている。なにより、私のような自然と平和を愛する人間が、火薬を研究しているというのが良い。

私が天命などという非科学的なことをいう理由がもう一つある。