終わりの見えない虐待に耐える毎日…ジャーナリスト・佐々木俊尚の「壮絶過去」

家族は蜃気楼のように遠い存在だった
小野 美由紀 プロフィール

恋愛感情がわからない、という悩み

革命家になる夢を抱いて上京した佐々木。しかし、もうその頃には学生運動の火は消えていた。革命の雰囲気はまったくない。80年代、バブルの先駆けだ。明るいキャンパスライフが広がっていた。

佐々木にとっては拍子抜けだったが、それでも、夢中になるものをすぐに見つけた。登山だ。大学2年生より、社会人山岳会に加入し、毎週のように岩壁登攀にのめり込み、厳冬期の高山の氷壁にもトライするようになった。人と喋るのが苦手な佐々木にとって、ストイックな登山は肌に合っていた。

しかし、若い佐々木にとって、新しい悩みの種が訪れる。正しい恋愛関係の築き方が分からないのだ。

「人との『絆』を幼い頃に経験してこなかった自分にとって、人間関係を築くことはひとつの恐れでもあった」

 

見よう見まねで、形だけの恋愛はできる。バブルに湧く80年代、東京の学生のデートは、ユーミンの歌そのものだった。

人気車のファミリアに乗ってドライブ、スキー旅行、海の見える山の上のレストランでの食事。トレンディドラマを真似ることはできても、照れと居心地の悪さは隠せなかった。女性のほうから積極的に来られても、「好き」という気持ちがわからない。周囲のように恋愛に浮かれることができない。自分は恋愛に向いていないのではないか?

「恋愛感情がわからない。相手を意のままにしたいとか、あらぶるような独占欲、本能的な恋愛感情を、これまで感じたことがない。目の前の女性を好きになる。でもそれは、本当に自分が求めていることなのか。そういう爆発的なパッションがないのに、人と付き合っても良いのか?という自問自答を、ずっと抱えていた」

小津安二郎の映画に出てくるような「初めから、情愛」の恋愛関係ならよくわかる。しかし、付き合っている相手が、男友達と食事に行ったと聞いても嫉妬を感じない。恋愛ってなんなんだ……。

それは、毎日新聞の記者として働きはじめてからも変わなかった。

「地方に行くとだいたい市役所の広報の女の子とくっつくよね(笑)。あとはまあ社内結婚とかかな。新聞社って今で言うと、肉食的なイメージだったから、言葉も立つし。取材で慣れてるから、口説くのも早い(笑)」

恋愛関係には慣れはじめたものの、特定の女性と、無償の愛情関係を持続できるという自信が、佐々木にはまったくなかった。

さらに、その頃の佐々木はあまりにも仕事が過酷で、それどころではなかった。

「デートして、映画見て、見てる2時間のあいだにも、何回もポケベルで連絡が来て、席を立って電話しにいったら……それは怒るよね(笑)だからあんまり長続きしない。たくさんの女性と付き合ったけど、短く終わることも多かった。制度的なもの、結婚にまで持ち込むほどの熱意は、自分にはなかった」

まだ当時は30代で独身だと変人扱いはされたが、それよりも佐々木は優秀なジャーナリストとしていい仕事がしたかった。