連載「男のパスタ道」第3回
パスタをおいしくする「ゆで方と塩の入れ方」3つの正解

パスタに突然「コシ」が出てくる、ゆで汁の塩分濃度

デュラム小麦から取り出したグルテンを、同じ重量、そしてほぼ同じ形状に分ける。そして水1リットルに対し、塩0グラム、6グラム、10グラム、15グラム、20グラム、25グラム、30グラム、40グラム、50グラムの9種類の塩分濃度でゆでてみるのである。その結果、塩0グラム=真水と、塩を加えたものを比べると、硬さに違いが感じられたが、6グラムと10グラム、15グラムを比較してもはっきりと区別がつかない。しかしこれが20グラムになると、食感の違いを区別できた。20グラムのほうが歯ごたえがあり、歯切れもよいのだ。

この差は25グラムだとさらに明確で、30グラムではゆであがったグルテンを手で触った時点でもう硬さを感じる。40グラム、50グラムはさらに硬い。
塩分が濃いほど、明らかに弾性が増していくのが感じとれた。

また食感については、真水や、低い塩分濃度のものは噛みすぎたガムのようなクニュクニュした感じだが、徐々にそれがなくなっていく。グッと噛みごたえが増し、歯切れよくプチップチッと噛み切れるようになる。

なぜグルテンは塩分濃度が高くなるとより硬くなるのか。それは食塩水の電解質がグルテニン同士の結合部分を増やすからだと考えられる。グルテニンを構成しているアミノ酸のなかには、荷電しているものがある。したがって、隣接するグルテニンが近づいても、極が同じなら反発しあい、離れてしまう。しかし、食塩水のなかでは、イオンが荷電部分に引き寄せられて電荷を打ち消し、アミノ酸が反発しあうのを防ぐことができる。特にグルテニンにはマイナスに帯電したグルタミン酸が多い。グルタミン酸の負電荷を、食塩水のナトリウムイオンが中和することで、グルテニン同士が反発せずに結合できるようになる。

また、グルテンの網目構造が強くなれば、膨潤してふくらんだデンプン粒をしっかり抱え込むことができるだろう。となれば、水やイオンが入り込んでパンパンに膨らんだデンプン粒も崩壊せずにそのまま保たれる可能性も高くなる。グルテンの弾性が増すことで、デンプン粒の弾性も増すという相乗効果もありそうだ。

なお、これらの比較は火力も一定でない家庭のキッチンでの比較であり、また、家族を動員しての適当な二重盲検法による比較なので、正確ではないだろう。ただ、適当であるがゆえ、誰でも家庭のキッチンで簡単に調べられる。ぜひ読者の方もぜひ検証してみてほしいと思う。自分で体感してみれば、バイアスや迷信から自由な状態で料理を理解する一助となるはずだし、そもそも実験のサンプル数が増えるのはいいことだ。もし私と違う結果が出たら、ぜひとも知らせてほしい。

さて、前回と今回を踏まえたうえでの結論はこうだ。塩を入れれば必ずパスタのコシが強くなるというわけではない。しかし、ゆで汁の塩分濃度が2.0〜2.5パーセントを超えるあたりから、パスタにははっきりと心地よいプリプリとした食感が生まれ、アルデンテの状態も実現しやすくなる。ただし、同時にパスタはかなりしょっぱくなってくる。前回にも書いた「化学的な味」である塩味と「物理的な味」である食感のトレードオフが生じるのだ。