『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』著・布施哲---米中の「国益最大化」ゲーム─米国のリアリズムとは

布施 哲

そこに入れば入るほど、見えてきたのは日本が国家安全保障を依存する唯一の同盟国である米国も、そして急速に台頭している中国もまた「国益の最大化」というゲームをプレイし、その両国に日本は挟まれているという現実だ。米中の狭間で日本政府は、いや私たちは自分たちの行動が日本の国益につながるかということを、どこまで意識して行動しているだろうか。

グローバル化が進展し、どんなに経済的相互依存関係が進んでも、国際関係の基礎にあるのは各国による国益を巡る競争だ。時に「話し合えばわかる」、「日本だけは特殊だから」という甘い見通しや日本人だけの論理が介在する余地のない厳しい世界だ。その典型が軍事や安全保障の世界だろう。

そのような国益をめぐるゲームの中で、仮に皆がサッカーをやろうとしている時に日本だけがバスケットボールをやり出そうとするようなことになれば、日本の国益を毀損するのみならず、意図せず日本自身が地域全体の不安定要因になってしまうこともあり得る。

国力が緩やかに衰退していく中、リソースの制約に直面する一方で、中国の台頭と強硬姿勢という戦略環境の激変に日本はさらされている。

そうした中で日本人はこれまで以上に日本の平和や安定、豊かさという国益をどう確保していくのか―そう自覚することを好むと好まざるとにかかわらず、私たちは求められ、突き付けられていくだろう。国益のために何ができて、何ができないのか。何をやって、何をやらないのか。それをどう実行するのか、を実際的に追い求めていくリアリズムを。

今回上梓した『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』(講談社現代新書)は、まさにリアリズムの世界において国益追求の駆け引きを繰り広げる「米中」という二つの大国を軍事というレンズで見ようと試みたものだ。その両大国の狭間で日本は翻弄されていくのか、それともしたたかに国益を確保しながら立ち回っていけるのか。本書が皆さんにとって我が日本のリアリズムを考えるきっかけになればと願う。

(ふせ・さとる テレビ朝日政治部記者)
講談社 
読書人「本」9月号より

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『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』
著者:布施哲
講談社文庫 / 定価880円(税別)
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中国海軍の「本当の実力」と「アキレス腱」、 自衛隊に課せられた役割と米軍の反撃作戦とは――。アメリカが想定する米中紛争シミュレーションをもとに、「集団的自衛権」後の安全保障を考える。

米軍の視点から見た具体的なシナリオを紹介することによって、人民解放軍の現在と将来に関する読者の方々の理解が、もっとも進められると思う。今後のアジアの将来を決めるのは米国と中国であることは間違いないだろう。日本はその米国に国家安全保障を依存し、物理的には米中の狭間に位置しながら経済的、軍事的に膨張する中国のパワーと最前線で対峙している。

質量ともに日本が単独で中国のパワーと対峙できる局面はとっくに過ぎ、米国の軍事力や影響力を日本のパワーとして取り込んでいくことが死活的な利益と言える。その意味で米国、とりわけ米軍が中国をどう捉えているのか、という視点は日本の国益に直結すると言っていい。

■著者紹介
布施哲(ふせ・さとる)
1974年東京生まれ。テレビ朝日政治部記者。97年上智大学法学部卒業、同年テレビ朝日入社。これまで主に民主党、総理官邸など国内政治を取材。防衛大学校総合安全保障研究科修了(国際安全保障学修士)、安倍ジャーナリストフェロー、フルブライト奨学生としてジョージタウン大学、米CSBA(戦略・予算評価センター)での客員フェローを経て現職。

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