地方で必要なのはセレクトショップなどの「差別化」ではなく、地域の人に選ばれる存在であること

川上徹也・著 『物を売るバカ』刊行記念対談@盛岡「フキデチョウ文庫」

地域で生き残るためには、地域経済の輪の中に入るしかない

川上 地域の子どもとの交流は地域に根付く店として大切なんですね。さわや書店さんは職業体験のような活動はされているんですか?

栗澤 もちろん受け付けています。僕は、これからうちの書店が生き残るには、「街の本屋さん」でいなければいけないと思っているんです。顔の見える本屋でなければ、と。沼田さんのような地域の方ともこうして交流させていただいていますが、きっと、沼田さんは欲しい本があったらうちに言ってくれると思うんですよ(笑)。そういう関係をどんどん地域の中に作っていって、どんどん経済を回していけばいい。八百屋さん、魚屋さん、書店といった地域経済の輪の中のひとつで充分なんじゃないか、と感じていて。たとえそれが小さくても、回り続けているうちは大丈夫ですから。

川上 盛岡は書店がそうした輪に入りやすい街だと思います。以前盛岡に来たとき、「本を読みに来たい街だなあ」と思いました。いちばん本が集まっているのはどう考えても東京ですし「本の街」というとちょっと違うのですが(笑)、そういう総量の問題ではない何かが盛岡にはあります。本が似合うと言えばよいのでしょうか。読書のためだけに来たいんですよね。

沼田 この前、さわや書店さんの店頭で盛岡の喫茶店特集が置いてあって。ページをめくったら「大手コーヒーチェーンが撤退する街、盛岡」と書いてあったんです。それを見てはっとしました。そういうことか、と。私も休日は街の喫茶店でだらだらと本を読む、というような過ごし方が多いのですが、喫茶店文化が栄えているから本を読む場所が多い、とも言えるかもしれません。

川上 なるほど、確かにそうですね。贅沢な時間の使い方ですよね。

沼田 この前の休日、仙台まで足を伸ばして「モーツァルト」という喫茶店で読書をしてきたんですが、嫁さんに言ったら「バカじゃないの!?」と言われました(笑)。

川上 いや、でも、読書のためだけの喫茶店めぐりの旅なんて贅沢ですよね。ただ、東京だけではないと思いますが、最近は電車に乗って周りを見回すと本を読んでいる人が一人もいない、ということがままあります。そのかわり、iPhoneなどのデジタルデバイスを持っているわけです。数年後、どれくらいの人が本を読んでいるのかと不安になってしまいますね。

栗澤 ええ、わかります。

川上 そこで今後僕が伝えていきたいと思っているのは、「本を読んでいる姿ってオシャレでかっこいいんだ」ということ。以前、盛岡へ来た時、ちょうど北上川の河原で高校生くらいの男の子が読書をしているかっこいいビジュアルを見て、ああ、こういう姿を伝えればいいんだと。

栗澤 読書の習慣の入り口がビジュアルから入るのもいいかもしれませんね。

川上 たとえば、電車でみんながスマホをいじっている中で本を読んでいる女子高生は数倍可愛く見える――というような写真を撮って、駅貼りのポスターにするという試みをやってみたいなと思っているんです。書店さんや取次さんにスポンサーになってもらって。

沼田 面白いですね。

川上 そういうロケの場所として、盛岡はとても絵になるでしょう。僕、学生のとき、本を読むよりも買うことが好きでした。「たぶん読まないだろう」ってわかっていても、なお買っていた。

沼田 ああ、わかります、わかります。

川上 今はそういう文化はないのかもしれません。「読書をしよう!」と言ってもなかなか浸透しないかもしれないけれど、まずは小道具として、スマホよりかっこいいよという空気を作っていければ、と。

栗澤 いいですね。私たちも、まずは地域の一員としてしっかり経済を回していきますよ。

<了>



写真左:栗澤 順一(くりさわ・じゅんいち)
書店員/さわや書店外商部兼商品管理部部長。 1995年岩手大学卒。さわや書店入社後、本店専門書フロア、フェザン店次長、仙北店店長を経て現職。教科書販売から各種イベントの企画、出張販売や各店巡回など、忙しく駆け回る日々を送る。趣味は深酒。

写真中央:川上 徹也(かわかみ・てつや)
湘南ストーリーブランディング研究所代表。 大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られる。 著書に、本対談のベースとなった本『物を売るバカ』(KADOKAWA)などがある。

写真右:沼田 雅充(ぬまた・みつひろ)
一般社団法人しあわせ計画舎代表理事。 1963年盛岡生まれ。私立岩手高校卒業後、医薬品卸などの商社勤務を経て、40代で介護業界に転職。介護施設の責任者を務めた後、「本、福祉、まちづくり」をテーマにした、ブックカフェ型介護施設「フキデチョウ文庫」を立ち上げ、代表を務める。
『物を売るバカ
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著者:川上徹也
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