地方で必要なのはセレクトショップなどの「差別化」ではなく、地域の人に選ばれる存在であること

川上徹也・著 『物を売るバカ』刊行記念対談@盛岡「フキデチョウ文庫」

川上 なぜそうなったかというとちゃんと理由があります。そのセレクトショップとして大成功している店も、いきなり今の形になった訳ではないということです。そういう店だと認知されるまでは10年くらい試行錯誤して、街全体との調和をはかってきた。その全体の調和を抜きにしていきなり棚だけ同じにしてもダメだったということなのでしょう。さわや書店さんの場合もおそらく、フェザン店のラインナップを他の店舗に拡大したからと言って、必ずしもそれが売れるわけではないと思います。

栗澤 ええ、それぞれ地域で果たすべき役割がありますからね。店舗は生き物です。

川上 さっきおっしゃっていた「セレクトショップを作れ」というのは、成功している店の棚だけを真似た店と同じことなんですよね。形だけ真似ても、絶対に長続きしません。

沼田そうそう、セレクトショップを作ればすべて解決するのであれば、こんなに苦労はしないですよ(笑)。

「半年間利用者ゼロ」を救ったのは、地域の子どもたちだった

川上 しあわせ計画舎さんは介護×図書館という新しいコンセプトですよね。介護施設として、街にはすんなり受け入れられたのですか?

沼田 実は・・・・・・半年間、利用者ゼロで。

川上 えっ! そうなんですか?

沼田 本当に、まったくのゼロだったんですよ。

川上 半年間も。それはよく粘りましたね・・・・・・。

沼田 ギリギリの状態でしたし、「もう辞めようかな」と思ったこともありましたが、オープン当初から地域の子どもたちはちょろちょろと来て本を読んでいて。そうすると親御さんが「うちの子どもが変なところに出入りしているらしい」と見に来るわけです(笑)。実際に来て見てもらえると、「あ、ここなら大丈夫だわ」と思っていただけて、そこから少しずつ親御さんや一般の方も図書館にいらっしゃるようになりました。そうすると「実はうちの母が」「姑が」「叔母が」とご家族の話がでるようになり、介護施設の方もじわじわと利用人数が増えていったんです。

川上 地域のケアマネージャー(要支援・要介護認定を受けた人からの相談を受ける介護支援専門員)さんからの反応はどうでしたか?

沼田 私たちの業態は介護業界の中では異質だったので、「何がやりたいんだ?」という感じで遠巻きに見ている感じでしたね。「見学に来てください」とパンフレットを渡しても、なかなか来ていただけませんでした。子どもをきっかけにようやく利用者さんも増えてきて、ケアマネさんも認めてくれた感じでしょうか。

川上 子どもたちもよく入ってきましたよね。さすが子どもというか・・・・・・。入口は開けっ放しにしていたんですか?

沼田 はい、地域に開くという意味で、朝から夕方5時まで開けっ放しです。黒板に落書きしたり、階段に座って漫画を読んだり、自由に入って自由にくつろいでいました。

川上 その過ごし方が、子どもたちの中で口コミで広がっていった、と。

沼田 さらに、地元の小学校2年生の課外学習で街探検というのがあって、子どもたちがフキデチョウ文庫を選んでくれて、かなり知ってもらえたみたいですね。

川上 それにしても、ただ本を読みに来ていた子どもからお客様が広がるというのも不思議な話ですね。

沼田 介護サービスを利用する親御さんから子どもの図書館利用につながるだろう、という最初の想定と、まったくの逆なんです(笑)。大誤算でしたね。学童で地域のおじいさんが子どもたちの面倒を見る、など制度を利用した世代間交流は日本中で行なわれていますが、行政の制度に乗っからなくても自然発生的に交流が生まれているコミュニティというのは、日本でもここだけではないかと思っています。それはお客様の流れにヒントがあるんじゃないでしょうか。