『ソーシャルインパクト』【第4回】顧客満足(CS)志向からソーシャルインパクト(SI)志向へ

「自分ごと」とは、誰かから与えられた「他人ごと」ではなく、自分からはじまる営みにワクワクしながら取り組んでいる状態で、自分がかかわるべきこと・自分がこだわること・自分がやりがいをもつこととして、(自分の意識として)その対象にオーナシップをもっている状態のことで、第4章で解説するフロー体験がある状態ともいえます。

数々のイノベーションを生み出しているアップルやグーグルという会社は、従業員のモチベーションが高いことで知られています。

この2社は、思いやり経営コンソーアムが行った組織ブランド調査によると、個人の自主的な働きを促す前向きな意欲などで構成される指標「自由創発」と、未来を切り開いていく力などで構成される指標「未来先取」が、ともに、突出して高い数値を示していました(プレスリリース(2012年5月7日発信

あくまで、組織ブランドの調査結果に過ぎませんが、個々の従業員が組織にかかわることを「自分ごと」としてとらえていることと、組織が未来を切り開いていく力をもっていることのあいだには、なんらかの関係があるかもしれません。

とくにアップルは、従業員ばかりか、顧客やパートナー企業などもエバンジェリスト(伝道師)と呼ばれるほど、「自分ごと」と考える人も多く、その期待以上のことを実現することで、アップルのブランドは成り立っています。そういったアップルを取り巻くコミュニティでは、企業も含めた関係者の「自分ごと」がつながって「みんなごと」になっています。そして、その目利きや期待を超えるように、企業は活動し、結果的に、高いインパクトを創出すること
が実現しています。

蛇足ですが、アップルが提供するiPhoneやiPad のアプリに、世の中の課題を変えることに挑戦するアプリが多いのも、こういった「自分ごと」「みんなごと」が成り立っている、共感の連鎖があるコミュニティとは無縁ではないかもしれません。

「自分ごと」化したことをさらに促進するには、さまざまな関係者も巻き込んで「みんなごと」にしていくことになります。自分だけのやる気やワクワクなどをもって推進するだけではなく、エンパワメントし合うコミュニティを成り立たせて、お互いに、みんなのやる気とワクワクなどを引き出して、一緒に取り組んでいく。そして仲間がそれぞれ本気になる。そういった「みんなごと」化が実現すると、自分のアイディアに他人が自発的に加わってくる、あるいは自分ごととなっている仲間が広がる、そういった状態にもなります。

そして、「世の中ごと」化させることもポイントです。ワクワクを進める「自分ごと」化、コミュニティで取り組む「みんなごと」化、そして、共感や影響の輪を拡大する「世の中ごと」化が成り立っているとき、持続的に価値が生み出されることになります。

「世の中ごと」化とは、世の中の関心事に重ねる、あるいは世の中の関心事から出発することで、自分や自分たちの関心事を、広く世の中の関心事とすることです。つまり、世の中の人びとのつながり、ソーシャルネットワークを活性化し、そういったネットワークをパートナーとすることです。この「世の中ごと」は、ソーシャルインパクトを生み出すうえで、とても重要なステージになります。

より具体的にいうと、「世の中ごと」化をするとは、たとえば、自社の事業や商品・サービスを、世の中の人びとの関心事にしてしまうことです。会社の仕事や商品は、会社に所属する人には大事なことであり、関心事です。また、その商品・サービスを利用するユーザーも関心があるでしょう。しかし、それ以外の世の中の人びとは、あまり関心をもたないことが多いものです。

たとえば、「絶対にゆるまないネジ」とただいわれても、建設関係以外の人や、お年寄り、主婦には関心をもたれないでしょう。こういう商品の場合、たとえ宣伝をしたとしても、注目する人は少なく、口コミも起こりにくいものです。

ところが、それが「高さ634メートルの東京スカイツリーを支える技術」であること、はたまた「そのネジによって、離島を結ぶ橋ができ、離れ島の子どもが学校に通えるようになった技術」であることが知られ、いったん世の中の人が関心をもつようになると、口コミが起きやすくなります。共感をして、勝手に世の中の人びとが宣伝をするからです。また、世の中の人びとが関心をもってくれると、一緒に働く従業員も誇らしく思うようになります。

その結果、いつも以上に従業員の働きがいは増し、また、世の中の多くの人や、それまで会えなかったような人と出会えるような場面にも遭遇します。それが、仕事、ビジネスの大きな突破口になります。

なお、必ずしも、「自分ごと」→「みんなごと」→「世の中ごと」という順番で進めなければいけないわけではありません。たとえば、企業が社会に好影響をもたらす事業を推進することで、従業員が企業に愛着心や誇りをもち、やる気や一体感・団結心が高まることがあります。これなどは、「世の中ごと」に取り組むことで、従業員の「自分ごと」と「みんなごと」を引き起こしたと見ることができます。

第2章以降、こういったソーシャルインパクトの考え方やフレームワークを用いて、各種の実践事例とそこから示唆されることを解説していきます。第2章では、ソーシャルインパクトによって市場が創造されている実践を、第3章では、ソーシャルインパクトを念頭に据えたマーケティングの実践を解説します。そして、第4章と第5章は、ソーシャルインパクトの時代の働き方と組織のあり方、第6章はソーシャルインパクトを起こすチームについての解説を行います。

本書に続く

玉村雅敏(たまむら・まさとし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授

慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学院政策・メディア研究科博士課程、千葉商科大学政策情報学部助教授を経て現職。博士(政策・メディア)。新潟市政策改革本部アドバイザー、文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官、横須賀市政策研究専門委員、内閣官房地域活性化伝道師などを兼務。専門分野はソーシャルマーケティング、公共経営など。
 

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