国や医師会が批判する「混合診療」を導入すれば安全性が上がる---上昌広『医療詐欺』第7章より

「格差」は安全を底上げする

ビジネスで利用する客は自腹で運賃を払うことはないのでフル・フェア、つまり割引ではない正規料金での搭乗が基本です。このような客を快適なシートやサービスで優遇することで、より多く呼び込むというイノベーションを生み出したのです。これで航空会社の経営状況は大きく改善されました。

人の命を預かる者が報酬によって対応に差をつける――。日本医師会の理屈でいえば、このような「格差」の中では、カネのあるなしで安全が左右されるようになるはずです。では、そうなったでしょうか。貧乏人はボロボロの飛行機に乗せ、金持ちは最新の飛行機に乗せるというような「格差」が広がったでしょうか。

広がるどころかむしろ逆です。収益を安定させた航空会社は、航空機そのものの安全性の改善に取り組みました。

よく自動車よりも飛行機のほうが事故の確率が低くて安全だという話を聞いたことがあるかと思いますが、これは事実です。現在でも機材破損はたびたび報じられますが、70年代のような致命的な事故は起きていません。2000年から先進国の第4世代のエアラインにおける死亡事故はテロを除きゼロ、と驚くほどの安全性向上を実現したのです。

航空会社は「混合運賃」という乗客の"格差"を生み出すことで、収益を拡大して、結果として乗客全体の安全性を向上させることに成功しました。同じく人の命を預かる医療で患者の"格差"を生み出すことが、一概に悪い結果を招くとは言いきれないのです。

「公金注入」ではなく「競争」を

航空業界にビジネスクラスのない世界をちょっと想像してみてください。

この世界では、乗客はすべて平等で、運賃も政府がすべて一律で決定しています。すべての国民がバスや電車のように低価格で飛行機に乗れる、という国の方針もあり、運賃はどんどん下がっていきます。

サービスやキャビンアテンダントの数も法律で厳密に定められているので、すべて横並び。航空会社がビジネスクラスを導入しようなんて言ったら袋だたきにされます。このような世界の飛行機にみなさんは乗りたいでしょうか?

私だったら、乗りたくありません。

安全というものを「カネ」が担保している部分は否定できません。競争が認められない世界では「カネ」を自分でまかなうことができませんので、国家に依存することになります。国家にじゃぶじゃぶと「カネ」が溢れているうちはそれでいいかもしれませんが、国家財政が困窮すれば、「カネ」がまわらなくなり、安全がないがしろにされるからです。

今の日本の医療はこれとまったく同じ構造です。では、どうすればいいのでしょう。

私は今の日本の医療に必要なのは、シュプレヒコールをあげて財政難の国家財政から、少しでも多くのカネを引っ張ることではなく、「競争」だと思っています。

競い合うことで医療の質が上がり、その対価を得ることで安全性に還元されていくのです。「混合診療」の制度を柔軟に導入していくということは、医師を儲けさせることではありません。医師の競争を促すことなのです。

国家のための医療を、患者のための医療に戻すため、まずは国家から医療の価格統制権を奪わなければいけない、ということはこれまで何度もお話ししてきました。「混合診療」という医療の「ビジネスクラス」はその第一歩になる可能性があるのです。

 【了】

上 昌広(かみ・まさひろ)
東京大学医科学研究所「先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門」特任教授。医学博士。1968年、兵庫県生まれ。1993年、東京大学 医学部医学科卒。東京大学医学部付属病院にて内科研修医となり、1995年、東京都立駒込病院血液内科医員。1999年、東京大学大学院医学系研究科博士 課程を修了し、虎の門病院血液科医員に。2001年から国立がんセンター中央病院薬物療法部の医員も務め、造血器悪性腫瘍の臨床研究を行う。2005年、 東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンス、メディカルネットワークを研究。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感 染症学。

著者:上 昌広
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