国や医師会が批判する「混合診療」を導入すれば安全性が上がる---上昌広『医療詐欺』第7章より

不妊治療が向上した理由

私は、この医師会の主張には首を傾げざるをえません。

これまで本書で見てきたように、すでにこの国ではおカネの有無、住んでいる地域などで健康や生命が左右されてしまっています。しかも、国にどんなに「社会保障を充実させよ」と説いても、「無い袖は振れません」と断られるのが現実です。

このような状況を打破するには、医療業界内のカネが循環する仕組みを抜本的に変えなくてはいけません。医療費を抑えながら高度な医療を実現するという無理難題をすすめていくには、患者であるみなさんに自己負担をしていただく「自由診療」を拡充するしかないことは明らかです。

そう聞くと、「なんだ、ついさっきまでは慢性骨髄性白血病患者の自己負担を減らせみたいなことを言っていたくせに」と思うかもしれませんが、そうではありません。

「治療を止めてしまったら死んでしまう」というような病状の患者に対しては、公的保険医療ですべてを賄うくらいの厚いサポートが必要です。それを実行できる医療財政を確保するためにも、すぐには生命の危機に直結しないような治療に関しては、柔軟なシステムを取り入れなくてはいけません。

日本の医療行政の悪しき慣習である「すべて一律」の対応ではなく、ケースバイケースの対応が望まれるということです。

医師会が主張するように「医療格差」が広がるのではと心配される方も多いかもしれません。たしかにまったく「格差」ができないとは言いきれませんが、この「格差」はまわりまわって、患者であるみなさんにとっての利益になるのです。

それを示すのが、「不妊治療」です。

ご存じの方もおられるでしょうが、不妊治療というのは公的医療保険の適用外ですので、おカネの有無で患者に「格差」が生じます。厚労省や日本医師会の理屈で言えば、この「格差」を利用して、患者に不適切な治療を強いるようなアウトロー医師が増え、「安全」などと無縁な医療現場になっているはずですが、現実は違います。

実は日本の不妊治療技術は、世界でもトップレベルになっているのです。

航空会社は安全性向上に成功

理由はただひとつ、医療機関が独自に価格を設定しているからです。

不妊に悩む今の女性たちには厚労省や日本医師会が心配しているほど情報「格差」はありません。ネットやクチコミで、評判のいい不妊治療医をいとも簡単に探すことができます。

そのような医師のもとには患者が多く集まりますので、満足度が上がります。満足度が上がれば、価格に転嫁できます。収益が上がれば、スタッフを増やし、最新の機器を購入するなどの設備投資も促されます。

日本の不妊治療のレベルアップは、医師が自助努力で技術やサービスを向上させることができるという好循環をつくることができたからでしょう。

そんなことを聞くと、サラリーマンや商売をしているみなさんは「当たり前のことだよね」と思うかもしれません。しかし、この当たり前のことが、医療の世界では「患者の安全性や有効性が確保できない」として退けられてきたのです。

その根底には、自由診療が増えると、医師は儲けを優先し、金持ちしか相手にしなくなるという「性悪説」があるわけですが、私はこれには大いに疑問があります。

航空会社の「ビジネスクラス」を見れば明らかです。

年配の方は覚えていると思いますが、1970年代、世界の航空事情は最悪でした。会社は軒並み赤字、安全性も最悪、なかには飛行中に機体が空中分解してしまうケースなどもあり、まさしく今の日本の医療のごとく「破綻寸前」という状態だったのです。

なぜ当時の航空会社が軒並み経営難に陥ったかといえば、運賃がどんどんディスカウントされてしまったからです。

正規料金で乗ってくれれば成立する航空会社のビジネスモデルがこれで一気に動脈硬化を起こしてしまったのです。人の命を運んでいるんだからしっかり安全性を向上させろ、といくら世間から批判されても、日本の厚労省と同様に「財政が厳しくて」と繰り返すばかりです。

この問題を解決したのが、「ビジネスクラス」という発明でした。