国や医師会が批判する「混合診療」を導入すれば安全性が上がる---上昌広『医療詐欺』第7章より

リストラだけでは医療は甦らない

医師も足りない、患者の自己負担も多い。しかし、今の日本の状況を考えるとこれ以上、公的医療保険からの支払いを増やすということは現実的には難しいでしょう。この状況は、銀行からの追加融資を打ち切られ、倒産寸前に追い込まれた企業とよく似ています。

事実、厚労省が発表した2011年度の病院の収支状況(181病院の収支を調査)では、黒字になったのは全体の4%のみ。専門領域別に見ると外科だけが黒字で、麻酔科は63%、皮膚科は54%、精神科は43%、産婦人科は14%の赤字です。

このような赤字が何年も続いていれば、そこで働く医師や看護師が人員を削減され、過重労働ですり減っているのも当然です。つまり、医療というのはいわば「倒産寸前のブラック企業」なのです。

もし鉄道会社、航空会社、あるいは食品会社がこのような経営状況だったら、みなさんはその企業のサービスを利用しようと思いますか?

「命」を預けたくないと思うのが当然ではないでしょうか。

では、医療というシステムの「倒産」を食い止め、甦らせるにはどうすべきでしょう。これまで厚労省は医師を減らし、看護師を減らすという「リストラ」と、病院の収入源である診療報酬を減らすという「経費削減」を敢行してきました。

無駄の削減はたしかに大切ですが、それだけで企業は甦らないことは、サラリーマンのみなさんならば、よくご存じでしょう。企業が甦るためには人事システムやビジネスモデルなどを根本から変えるような大規模な改革、つまりイノベーションが必要です。

これを医療に置き換えれば、まずひとつ挙げられるのが「混合診療」の導入だと私は思っています。

「混合診療」のメリット

「混合診療」とは公的医療保険でまかなう保険診療と、専門性が高い自由診療を組み合わせ、後者を患者であるみなさんに負担していただくというものですが、現在の日本では禁止されています。

たとえば、もしあなたが医療機関で、医療費20万円の保険診療にくわえて10万円の自由診療を受けようとすると、30万円をすべて自己負担しなくてはいけません。

「混合」という概念自体が認められていないので、「自由診療」が少しでも加われば、それはすべて「自由診療」とみなされてしまうのです。

もし「混合診療」が解禁された場合、医療費20万円の部分は自己負担割合が3割のサラリーマンならば、支払うのは6万円、それに自由診療の10万円を合わせた16万円が自己負担となります。つまり、自由診療を選択しやすくなるのです。

これまで保険診療分まですべて払わされるという重荷から、自由診療を受けたくても受けられなかったという患者からすればこれは大きなメリットがあります。

治療の選択肢が増えるわけですし、別に認めてもいいじゃないかとみなさんの立場からは思うでしょうが、多くの医師は「とんでもない」と解禁に猛反発しています。たとえば、「日本医師会」はわざわざ公式サイトに「日本医師会は、混合診療の容認に反対します!」という項目をつくり、以下のように訴えました。

社会保障を充実させることは、国の社会的使命であることが日本国憲法にも規定されています。国が果たすべき責任を放棄し、お金の有無で健康や生命が左右されるようなことがあってはなりません。

(中略)

健康保険の範囲内の医療では満足できず、さらにお金を払って、もっと違う医療を受けたいというひとは確かにいるかもしれません。しかし、「より良い医療を受けたい」という願いは、「同じ思いを持つほかのひとにも、同様により良い医療が提供されるべきだ」という考えを持つべきです。(日本医師会公式サイトより)

要するに、「自由診療」が受けやすくなると、これをやる医師が増える。混合診療をできる患者はいいが、保険診療だけをする患者に提供する医療と「格差」が生じるじゃないかというわけです。