国や医師会が批判する「混合診療」を導入すれば安全性が上がる---上昌広『医療詐欺』第7章より

金の切れ目が命の切れ目

このような高額の自己負担を強いられる患者のため、日本には「高額療養費制度」というものがあります。1ヵ月間に医療機関でかかった費用を世帯、もしくは個人単位で合計し、限度額を超えた分が返還される、というものです。

たとえば、70歳未満の患者で4人家族の場合、世帯月収が53万円未満で医療費が26万7,000円以下ならば、毎月の負担上限額は8万100円(同年度内の4回目以降は4万4,400円)。この「高額療養費制度」を利用すれば、患者とその家族のかなりの助けにはなります。

それでもやはりグリベックのような高額な薬を長期で飲み続けなければならない患者には、重い負担がじわじわとボディブローのようにきいてくるという「現実」があります。

児玉有子(こだまゆうこ)・東大医科学研究所特任研究員の調査によると、慢性骨髄性白血病患者の世帯総所得(中央値)は2000年が533万円。それが2008年になると、389万円に減少していました。

この間、グリベックの自己負担額はほぼ横ばい(2000年が59万円、2008年58万円)ですから、「高額療養費制度」などを用いても、負担感が右肩上がりで重くなっているということです。

事実、児玉研究員の調査でも、約40%の患者が経済負担のために、グリベックの中止を考えたことがあり、そのうちの3%が実際に止めていました。グリベックを休薬すると、かなり高い確率で病が再発するというデータもあります。

まさしく、金の切れ目が命の切れ目という状況なのです。

「国民皆保険制度」という世界に誇るシステムによって、誰もが安く医療を受けることができると信じて疑わない人からすると、大変ショッキングな話かもしれませんが、これがこの国の医療の現実なのです。

自己負担がケタ違いに重い国

なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。

問題の根幹を明らかにしようと、私たちの研究室では、海外の慢性骨髄性白血病の患者がどのようにグリベックの個人負担に対処をしているのか調査をしてみました。

すると、目を疑うような結果が明らかになりました。

なんと、慢性骨髄性白血病患者に重い負担を強いているのは、日本とアメリカだけだったのです。

イギリス、フランス、イタリアの3ヵ国は、公的保険で完全にカバーされているので患者の負担はゼロ。ちなみに、お隣の韓国も無料。ドイツの場合、一割の患者負担。日本と似ているじゃないかと思うかもしれませんが、上限額が定められているので、実質的な年間負担額は最大2万1,600円なのです。

日本では高額療養費制度を用いても、14万~52万8,000円。同じ病気だというのに、日本の慢性骨髄性白血病患者は他の先進国と比較して数字が一ケタ違うほど、重い負担を強いられているのです。

ちなみに、アメリカの場合、加入保険によって違いはありますが、年間で約230万~500万円(2万3,000~5万ドル)。医療費を抑制するため、患者の自己負担を増やし続けてきた結果、気がつけば日本の医療は「医療後進国」と呼ばれるアメリカに近づいてきているのです。

そんなことを言っても日本は借金が山ほどあって財政危機なんだからしかたがないじゃないか、と思うかもしれません。たしかに、「治療が長期にわたる患者の負担軽減を図る」というマニフェストを掲げた民主党が政権を奪取し、高額療養費の負担緩和を実現しようとした時もそのような声が多く聞かれました。

厚労省や医療業界団体からの激しい「反発」で高額療養費負担の軽減は見送られたわけですが、その時の論拠となったのは「カネがない」・・・、つまり結局は、医療保険財政が厳しいということに尽きるのです。