「困りごと」はビジネスチャンス──ヤマトグループがビジネスで取り組む地域活性化支援

玉村雅敏・横田浩一・上木原弘修・池本修悟著『ソーシャルインパクト』【第2回】

この制度が導入されたことにより、これまで公共的な団体などに限定されていた公の施設の管理運営を民間事業者も含めた幅広い団体にも委ねることができるようになりました。武雄市図書館の指定管理者のCCCは、レンタルCD・DVDの最大手で、「TSUTAYA」を全国展開している民間企業です。人口約5万人の地方都市、武雄市の図書館運営を担ったCCCというこの組み合わせは、ある種の驚きとともに、全国の地方行政に強烈なインパクトを与えました。

市民の生活を豊かにする場において、市民価値を追求した結果の新しいアプローチであり、民間企業と行政機関が連携した新しいビジネスモデル。行政機関と民間企業による新機軸であり、新結合ともいえる新しい組み合わせです。イノベーションを生み出すのは、何も技術革新だけではありません。

ビジネスモデルの新しいかたち

このように社会課題をベースとした数多くのビジネスが生まれ、イノベーションも生まれているのが現状です。これまでビジネスモデルというと、お金儲けの仕組みであり、あるいはお金が循環する仕組みにスポットがあてられていましたが、生み出されるのはお金という要素だけではありませせん。

むしろ、ビジネスモデルは、価値を循環する仕組みであり、価値を共創する仕組みであるととらえたほうがいいのかもしれません。見方を変えると、それはかつての日本で日常的に行われていた、「寄り合い」や「講」といった仕組みとも似ています。そうした集まりに参加することで一定の役割を果たし、困りごとは起こりにくくなり、日々の豊かな暮らしをつづけていく。その仕組みのなかで、なりわいが生まれ、生活の基盤ができることもありました。

もともと日本にあったそうした仕組みは、人びとの気持ちや調子がぴたりと合う、あうんの呼吸で行われていたことに特徴があります。それをいまでは、「みんなでつくるビジネスモデル」というかたちに仕組み化しているのです。しかし、価値が循環し、価値を共創するという構造には変わりありません。効果的なビジネスモデルは、関係者全員にとって無理がなく、持続的に価値が循環し、Win—Winの価値の共創関係が成り立っているものです。

社会課題をベースとした新しいビジネスが生まれ、イノベーションが生まれるのは、価値が循環し、価値を共創する仕組みだからです。もともと日本で行われていたそうした仕組みを、いまあらためて確認しなおすことが必要かもしれません。

冒頭でも触れたCSVという考え方は、2006年に米国のマネジメント誌『ハーバードビジネスレビュー』12月号に、米国の著名な経営学者であるマイケル・ポーターが「Strategy and Society」(共通価値の戦略)と題する論文を発表。そのなかで初めて提唱された経営戦略のフレームワークです。

CSVは、前述のようにクリエイティング・シェアード・バリュー(Creating Shared Value)の略で、日本では「共通価値の創造」あるいは「共有価値の創造」と訳されています。より短くいうと「価値共創」です。社会も企業も顧客も、それぞれにとって共有できる事業や価値を生み出すことで、持続性のある経営を実現していくことができるといった意味があります。つまり、共有の価値を生み出すというビジネスモデルが、これからの経営のあり方だということです。その意味で、困りごとはビジネスを生み出す源泉であるといえるのです。

第3回に続く

玉村雅敏(たまむら・まさとし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授

慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学院政策・メディア研究科博士課程、千葉商科大学政策情報学部助教授を経て現職。博士(政策・メディア)。新潟市政策改革本部アドバイザー、文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官、横須賀市政策研究専門委員、内閣官房地域活性化伝道師などを兼務。専門分野はソーシャルマーケティング、公共経営など。
 

【イベント情報】
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http://www.libro.jp/blog/ikebukuro/event/820.php

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