「困りごと」はビジネスチャンス──ヤマトグループがビジネスで取り組む地域活性化支援

玉村雅敏・横田浩一・上木原弘修・池本修悟著『ソーシャルインパクト』【第2回】

実際に高齢者のリアルな様子を把握することこそが、過疎化と高齢化が進む地域には欠かせないサービスです。大豊町の買い物・見守り支援のモデルは、行政コストとしての負担もそれほど高くなく、たとえば年間一〇〇〇件程度の利用があった場合で数十万円程度です。財政を圧迫するといった高額なサービスではありません。

結局、町にとっても、住民にとっても、そしてヤマト運輸にとっても好ましい状況が生まれているのです。物流を担うヤマト運輸にとって過疎化や高齢化による人口減少は、荷物を届けるという本来の事業の縮小を意味します。それでは、地域の事業の継続性を保っていくことはむずかしくなってしまう。セールスドライバーなど物流業務を担う雇用も維持できなくなってしまうことにもなりかねません。

ヤマト運輸は地域の道路や水道、電気、ガスなどと同じように、宅急便事業を通じてライフラインを提供しています。そうした社会インフラ企業としての自覚が高く、地域の物流を維持していくことにも熱心な企業です。それが雇用を生み出し、事業の継続性を維持していくことになるからです。そうした企業だからこそ、地域の困りごとに対して積極的に目を向け、新たなビジネスを生み出したといえます。ヤマトはそれによって、企業の価値を向上させることにもなりました。

企業活動と社会貢献は両立できるか?

こうした困りごとの解決と企業価値の向上には、じつは相乗効果があるといえます。「企業がなんらかの活動を行うと、社会に負担をかけることになり、必ずしも好ましい結果を生み出すとはかぎらない。だから、社会貢献をすることでそれをカバーしたり、あるいは社会的な責任を意識してそれを改善する」。それがこれまでの常識的な考え方でした。

一方を追求すれば他方を犠牲にせざるをえないというトレードオフの考え方だったのです。しかし、大豊町の事例は、事業活動と社会の課題の解決はトレードオフの関係という、これまでの常識にはあてはまらないものです。大豊町の事例だけではなく、ヤマトが全国で取り組んでいる「プロジェクトG」は、まさにビジネスで社会課題に斬り込むことで企業価値を向上させ、強みを増すことになる好事例といえます。

そうした事例は、宅急便事業を手がける同社にかぎった特殊なものではありません。他の社会インフラを提供する企業にも見られる傾向になっています。また、社会課題にビジネスで挑戦する社会起業家、いわゆるソーシャルベンチャーの最近の活躍も見逃せません。

もっとも、世の中の困りごとを、ビジネスを通して解決し、収益を得ようといったことは、何も最近の目新しい現象ではなく、古くからあったビジネスの手法です。ただ、世の中の変化とともに、そのビジネスモデルも変わってきているのはたしかです。

最近は、社会課題をビジネスチャンスととらえ、イノベーションの源泉にしようといった傾向が目立つようになっています。たとえば、BOPビジネスはその代表的なケースといえます。途上国におけるBOP(Base of the Economic Pyramid)層、いわゆる低所得層を対象に、水や生活必需品・サービスの提供、貧困といったさまざまな社会的課題を解決しようというビジネスです。

貧困にあえぐBOP層は、世界に何十億人もいます。そうした層に対する支援は、これまでも行われてきましたが、ビジネスを提供しようという発想は乏しく、イノベーションの源泉という発想もほとんどありませんでした。

しかし、それを積極的にとらえ、生産者や販売者として持続可能なビジネスを提供しようと、多くのBOPビジネスが誕生しています。新しいビジネスモデルを考案したり、これまでになかったアプローチで問題解決を図ろうという精力的な取り組みが特徴です。それがイノベーションの源泉になっているといえます。

BOPビジネスにかぎらず、日本国内では福祉の分野でも見られる傾向です。たとえば、第6章で紹介する、文具・事務用品を手がける日本理化学工業(本社・神奈川県川崎市)は、50年以上も前から、障がい者の方が働きやすい会社を追求しています。障がい者が働きやすい環境を追求していくことは社会的な課題でもあります。その働きやすさを追求していった結果、だれにとっても「働く幸せ」を提供する場になりました。社会的な課題をビジネスの中心にとらえることで、事業を支えるイノベーションを生み出していったのです。

最近は、地域の図書館にも新しい動きが見られます。もともと地域の図書館は公共的な施設であり、地域住民に欠かせないという観点から税金で運営されています。図書館でビジネスと市民価値の両方を生み出すなどという発想は、皆無だったといえます。そうした常識を覆したのが、佐賀県武雄市の武雄市図書館です。

「行政機関」の武雄市役所と、指定管理者となった「民間企業」のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)がパートナーシップを組み、運営している図書館です。指定管理者制度は多様化する市民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間のノウハウを活用しながら、市民サービスの向上と経費の節減を図ることを目的に、2003年6月の地方自治法改正により創設されたものです。