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医師不足を招いた「真犯人」
医師が足りない、医療偏在を解消してほしいという患者たちの切実な願いをことごとく潰し、邪魔をしていたのは他でもない医師たち自身だった・・・。
まるで「2時間サスペンス」のようなどんでん返しですが、このドラマにはまだ続きがあります。医学部新設に反対している医師たちは、たとえるなら、放送のラスト30分前にあらわれる「いかにも怪しい容疑者」に過ぎません。今の日本の地域医療崩壊を招いた「真犯人」はちゃんと別にいるのです。
本書をここまで読んでいただいた方ならばもうおわかりでしょう。
そう、厚生労働省です。
厚労省は、これまでご説明してきた日本医師会、全国医学部長病院長会議とはまた違う観点から、医学部新設に反対しています。むしろ、両団体よりももっと露骨に「医師を増やしたくない」という姿勢をとっていると言ったほうが正確かもしれません。
日本の医療行政を司る役所がそんなことをするわけがないと思うかもしれませんが、これは仕方がありません。
なぜなら厚労省の高級官僚の多くが、「医師を増やせば、医療費も増えてしまう」という考えをもっているからです。
「医療費」とは日本の国民が一年間で医療、すなわち医師の診療費や薬代、それに保健、つまり健康診断や予防接種などに投じた費用の合計で、社会保障費から支出される分と個人支出、つまり自己負担分の両方が含まれます。
医師が増えれば、病院にかかる患者も増えるので、まず社会保障支出が膨らむ。それにくわえて、医師が増えれば医師どうしの競争が激化し、食べていくためにあることないことをふれまわり、患者に自己負担の治療をもちかける。だから医師を増やすと「医療費」がドカンと増えて、国が滅びる――。
これがいわゆる「医療費亡国論」と呼ばれるものです。
厚労官僚が医師を増やしたくない背景にはこの「医療費亡国論」があるのです。