医学会には薬の宣伝をする「御用学者」がいる---上昌広『医療詐欺』第1章より

患者の個人情報を横流し

実は「SIGN研究」がおこなわれた背景には、ノバルティスファーマ社の新薬販売戦略があります。

ポイントは、グリベックの副作用が問題になる患者を、新薬であるタシグナに切り替えるように誘導することでした。

グリベックは2012年度には383億円を売り上げたドル箱でしたが、2013年になると一部の白血病に対する特許が切れ、ジェネリックが発売されました。

一錠あたりの価格(当時)は、ジェネリックが1,842円であったのに対し、グリベックは2,749円。何もしなければ、ジェネリックに市場を奪われてしまう。そこでノバルティスファーマ社が編み出したのが、後継薬への「誘導」です。

グリベックの副作用を強調することで、同社が開発したグリベックの後継薬タシグナへと切り替えさせるようにしていく、というわけです。

ただ、ここに大きな問題があります。グリベックのジェネリックとタシグナの効果や副作用には大きな差はありませんが、かかる費用には雲泥の差があるのです。

タシグナの年間の薬剤費は約510万円。これに対してグリベックのジェネリックの費用は年間約269万円と約240万円もタシグナのほうが割高なのです。ここへ誘導するために、「SIGN研究」へ誘導したのではないかという疑惑がもたれているのです。

それを如実に示しているのが、患者情報の流出です。

東大病院が作成した患者向け説明文書には次のような記述があります。

「私たち(=東大病院)は、これらの情報(=性別や年齢などの患者の個人情報)が本臨床研究関係者以外の外部に流出したり目的外に利用されたりしないよう適切に保護します」

このように書いてあるにもかかわらず、255人分の患者情報がノバルティスファーマ社の手にわたっていたことが明らかになったのです。

この情報のなかには、性別や生年月、イニシャル、副作用情報などのほかに、個人が特定できる患者IDも203人分含まれていました。これはいわばグリベックの「顧客」情報を横流ししていたともとれるのです。

登録した患者がグリベックを止めてタシグナに変更した際には、営業担当者の業績として評価していたことや、ノバルティスファーマ社の東日本営業部では、担当医療機関の間でアンケート枚数を競う「インセンティブプログラム」を実施し、スターバックスコーヒーのプリペイドカードなどの褒賞を与えていたこともわかっています。

これを「販促活動」と呼ばずして、いったい何と呼べばいいのでしょうか。

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