『反骨の公務員、町をみがく』 故きを温ね新しきを知る

数年後、当初に予想通り観光客が徐々に増えてきたが、そこでも数々の利害の衝突があった。ツアーの一環で通過するだけで地域にお金を落とさない旅行代理店との折衝、観光のために町並みを残してほしい食堂や旅館と実際に住んで手入れをする人の利害調整、既存不適格を中心に建築基準法を振りかざすお役人との戦いなど四面楚歌の状況を一つ一つ切り抜けてきた。

しかし、あくまでも公務員である。突然町並みの担当を外され、部署異動。しかし、部署は頻繁に変われど、そのときどきに町の未来を切り開くために必要だと岡田が信じたことを実現していく。大正時代に町の有志によって建設された歌舞伎劇場の内子座もその一つだ。岡田が保存事業に取り組む前は、外観はまるでお化け屋敷、回り舞台は壊され、花道は会議室となっていた。さらに、時代はハコモノ行政全盛期、文化ホールを作ることが地域振興の目玉であり、これまた岡田にとって強い逆風が吹いていた。だけど、ここでもあの手この手を使って住民を巻き込み説得し、復元を成し遂げる。今では年間3万人が足を運び、町民の誇りになっている。

住民の側にたちつづけた公務員として、岡田には大切にしていた信念があった。それは"二足の草鞋をはくこと"だ。役場の制度の中でしか動けない公務員としての立場だけでなく、人間として信頼を地域から得るために、時間を惜しまず、身銭をきることもいとわなかった。

だが、身を粉にして目の前の仕事に取り組んでも、常に報われるわけではない、メディアや大学教授からは評価された実績も、役所や地元からは冷ややかな目で見られ、批判の対象になることもあった。希望を持ち続けたとしても、叶うかどうかはわからないし、それを継承してくれる人がいるとも限らない。退職後に日本各地でアドバイザーとして活動したのち、再び内子で仕事を開始したが、現場には岡田が大切にした「心」は引き継がれていなかった。

話の聞き役は、地域づくりの酸いも甘いも知る雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集人を務めた森まゆみ。公務員という立場を最大限活かして、町にとって本当に実現すべき未来を考え尽くした岡田のことは、どうしても本にしなければならないと強い意志で取り組んだ。自身の経験と主張を交えながら、鋭い突っ込みで話をリードする。著者との信頼関係があるからこそ引き出された本音、きれいごと抜きのぶっちゃけ話の連続である。

岡田は42年間の公務員生活を振り返り、「これほど幸福な職業はそうない」、だけど「僕のやったことがいいとも思っていない」と言う。本当に純朴でまじめすぎる。

町づくり、地域づくりに関わるすべての人におすすめしたい一冊だ。

「ごっくん馬路村」の村おこし―ちっちゃな村のおっきな感動物語
作者:大歳 昌彦
出版社:日本経済新聞社

内容紹介
人口1269人の高知県の山奥の村で、農協職員がユズ加工品の産地直送・通信販売に挑戦、日本一の田舎宣言とともに、村をまるごと売り出し始めた。村おこしにかけた人々のエネルギッシュな姿を描く。

高知県。ゆず。人口は今では1000人に満たないが、ゆずの加工品の売り上げは30億円を超える!

 

そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生
作者:横石 知二
出版社:ソフトバンククリエイティブ

内容紹介
男は朝っぱらから大酒をあおり、女は陰で他人をそしり日々を過ごすどん底の田舎町。この町でよそ者扱いされた青年が、町民の大反発を買ったことから始まっ た感動の再生ストーリー。今では70代、80代のおばあちゃんたちが、売上高2億6000万円のビジネスを支え、人口の2倍もの視察者が訪れる注目の町に 変貌した。著者が二十数年かけて成し遂げた命がけの蘇生術の全貌が明らかになる。

徳島県。はっぱ。いわゆる「ないものねだり」ではなく「あるものさがし」の優等生。著者の横石氏も元公務員。

 

ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
作者:高野 誠鮮
出版社:講談社

内容紹介
CIAの戦略に基づいてメディアを駆使し、ローマ法王にアラン・デュカス、木村秋則にエルメスの書道家、そしてNASAの宇宙飛行士や総理大臣も味方につけて限界集落から脱却させた市役所職員。

石川県。米。著者高野氏も、左遷されてもめげないスーパー公務員の1人。内藤のレビューはこちら

神山プロジェクト 未来の働き方を実験する
作者:篠原 匡
出版社:日経BP社

内容紹介
徳島県神山町。山深いこの町に、若きクリエイターや起業家が集う。なぜ徳島の片田舎に若者たちが吸い寄せられるのか。新しい働き方、クリエイティブを生む場づくり、地域再生の方法論、不確実を楽しむ生き方―。現代の日本人が抱える課題の答えがここにある。

徳島県。働き方。今もっとも注目が集まっている地域の一つ。ITベンチャーのサテライトオフィスが増えている、その理由とは。

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学
作者:ジェイン ジェイコブズ、翻訳:中村 達也
出版社:筑摩書房

内容紹介
地域が自立するための処方箋がたくさん詰まった地域経済論の名著を文庫化。雇用から、金融、エネルギーにいたるまで、すべてを地産地消にすることを提唱す る、ラディカルでユニークな経済論。これを読めばダメな地域と元気のある地域の差がよくわかる。巻末に元鳥取県知事の片山善博氏による実践面からの解説 と、中央大学教授塩沢由典氏による理論経済学から見たジェイコブズ論を収録。

地産地消を推奨するラディカルな内容、地域の自立を考える上で外せない一冊。

なぜローカル経済から日本は甦るのか
作者:冨山 和彦
出版社:PHP研究所

内容紹介
GDPと雇用の7割を占めるローカル企業こそ、日本経済の切り札となる。グローバルGとローカルLで人類史上初の巨大なパラダイムシフトが起こっている!会社再生のプロが説く、復活へのシナリオ。

グローバルな経済とローカルな経済の考え方の違いを明確な思考軸として提示してくれる本。グローバル化が叫ばれる中で、ローカルはどう考え、動けばいいのか、そのヒントが提示されている。

反骨の公務員、町をみがく---内子町・岡田文淑の 町並み、村並み保存
作者:森まゆみ
出版社:亜紀書房

内容紹介
都会の金をあてにしない、自立への途はあるのか? 過疎化と少子化はますます進み、地方と都会の格差は埋まらない。歴史的景観と自然を維持し、住民の暮らしを守るために何ができるのか。松山から40キロ、愛媛県内子町の町並み保存運動と日本のまちづくり40年。

『ノンフィクションはこれを読め! 2013』HONZが選んだ110冊
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社

内容紹介
『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』『ランドセル俳人の五・七・五』等、書評サイトHONZのお薦めレビューを集大成。