呉智英 × 適菜収 【第4回】「『活動的なバカ』が一番危険」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

正義の暴走について

 本当の動乱期になれば、レーニン毛沢東スターリンヒトラーが出てくるわけだ。

適菜 だとしたら歴史に学ぶべきですね。ヒトラーが出現したときにどうすべきだったかと。それをしっかり考えるべきです。

 どうすればいいと思う?

適菜 自分のできる範囲だったら、原稿書いて潰そうとはしますけど。今やっているみたいに。

 でも、ヒトラーが出現したときに、原稿書いていても間に合わないでしょ。

適菜 自分のできることをやるしかないですよ。

 俺にも答えがあるわけじゃない。それこそ適菜先生にお伺いしたいぐらいのところでさ。

適菜 ヒトラーだっていきなり権力を握ったわけではありません。周りがヒトラーを軽視していたからあそこまで暴走した。橋下だってバカな奴だと笑って放置しておくと大変なことになる。ゲーテも言うように、「活動的なバカ」が一番危険なんです。

だから、各自自分の職業の範囲内において、頑張るべきじゃないですか。右翼は天誅を下せばいいし、左翼は渋谷でデモ行進でもしていればいいし、議員は国会で追及すればいいし、私は新聞や週刊誌に原稿を書くしかないんですよ。それで早めの段階で駆除しておく。

 さらに恐ろしいことに自分がやられるだけではなくて、仲間を裏切らなければならない場面も出てくる。シベリアの抑留者も仲間を売ることでわずかなパンを得たと。それは全体主義の恐ろしさのひとつだけど、ドラキュラ伯爵の話の裏にはその意識がある。

というのは、魔物に食い殺されるのは嫌だけど仕方がない。でも、自分が魔物になってしまうのは怖いと。ゾンビに噛まれると、ゾンビになってしまうという話も同じだね。

適菜 自発的に密告が行われる社会になるわけですね。フランス革命でも仲間を殺していく。大衆運動はいくらでも暴走する。だから正義でさえ法によって制限しなければいけないと考えるのが正常な人間です。

大津でいじめ自殺があったときに『産経新聞』のコラムに書いたんですよ。いじめた奴が悪いのは当たり前だけど、大津の教育長になぐりかかったり、いじめた少年の家族の写真を晒して攻撃するのは、いじめた側と同じくらい卑劣な行為だと。遺族が復讐感情を持つのは当然だけど、なんの関係もない、ネットで暇を潰している連中が、正義の味方みたいな顔をしてリンチするのはおかしいと。

そしたらすごい反発があった。聞いた話によると、ネット掲示板でスレッドが3つ立ったらしいです。

【ウラジーミル・レーニン(1870~1924)】
ロシヤの革命家、政治家。ロシヤ革命の指導者として、史上初の社会主義国家=ソビエト連邦を築いた。

【毛沢東(1893~1976)】
中華人民共和国の政治家。農民運動を主導し、1931年に中華ソビエト共和国臨時政府を樹立。日中戦争で勲功を立て、49年には中華人民共和国を建国、国家主席となった。66年より文化大革命を引き起こす。

【ヨシフ・スターリン(1878~1953)】

ソビエト連邦の政治家、軍人。ロシヤ革命においてレーニン不在のボリシェヴィキを率いて活動。レーニンの死後、対立する勢力を粛清するなど専制的な政治体制をつくった。

【アドルフ・ヒトラー(1889~1945)】
ドイツの政治家。国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)党首として民族主義と反ユダヤ主義を掲げ、1933年に首相、翌三四年に総統に就任。侵略政策を強行した。