呉智英 × 適菜収 【第4回】「『活動的なバカ』が一番危険」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

 「患者様」とおだてることにより、医者と患者の関係が成り立たなくなる。片方は治療のプロとしての責任意識を持ち、片方は自分でも必死で治そうとする信頼と責任みたいなものがあるはずなのに、片方をおだてれば関係が成り立たなくなる。

適菜 政治もそうです。有権者がお客様になってしまっている。政治家は御用聞きに成り下がり、「民意に従え」などとバカなことを言い出すようになった。

 それがポピュリズムにつながってくるよね。

適菜 大阪市長の橋下徹がやっているのは全体主義と同じで、一種の大衆運動です。橋下の言っていることは支離滅裂で、正反対のことを平気な顔で言う。嘘に嘘を積み重ねる。実はそこが強みで、要するに政策や理念があるわけではなくて、バラエティ番組の雛壇芸人みたいに、知りもしないことに口を出して空気をつくっていくわけです。橋下の本質はアナーキストですが、あれは今の時代のポピュリストの姿でもある。

 俺は今世紀に入るか入らないかの頃からそういう政治家が増えたと見ている。適菜君と意見が違うかもしれないけど、橋下にも理念はあると思う。長野県の田中康夫、宮崎県の東国原英夫、東京都の石原慎太郎もみんな地方首長なんだね。

地方首長は一種の大統領制のような形で権力集中ができるから、そういうところに出てくる。彼らは政治資質としては非常に優れたところがあると思う。それは軍人の資質と同じで、政治状況が煮詰まってくると、やはり英雄待望論としてそういう奴が求められるようになる。

適菜 だから、危ないんですよ。地方首長選には民意がダイレクトに反映される。首相公選制にしてはいけないという証明みたいなものです。

 東国原はまったくダメで単に権力行使がしたい人間だったけど、橋下や石原になると、政治家としての勘は結構あると思う。逆に言えば、ポピュリズムを操れる人は、そういう人ではないかと思う。政治的資質としては冷静沈着型、隠忍自重型がいいということもあるわけだから一概には言えないけどね。

適菜 それは結構危険な状況だな。たとえ動乱期だろうと、そんなリーダーシップはいらない。こうした地方首長の出現は、やはり大衆社会の負の側面と捉えないといけないと思います。

【橋下徹(1969~)】
政治家、弁護士。現大阪市長。地域政党「大阪維新の会」の代表として大阪都構想、道州制の導入などを訴える。同盟国アメリカの軍隊に買春を勧めたり、意味不明の出直し市長選を強行し、支持を失った。

【田中康夫(1956~)】
政治家、作家。1980年、処女作の小説『なんとなく、クリスタル』で「文藝賞」を受賞。2000年10月から06年8月まで長野県知事を務め、「脱ダム」「脱記者クラブ」などの宣言が話題に。05年に新党日本を結成し、現在も代表を務める。

【東国原英夫(1957~)】
政治家、タレント。2007年、宮崎県知事に就任。自称「宮崎県のセールスマン」としてメディアでPRを行った。2012年の衆議院議員総選挙に出馬、当選するが、翌年12月に所属していた日本維新の会を離脱し、議員辞職している。

【石原慎太郎(1932~)】
政治家、作家。1956年に『太陽の季節』で芥川賞を受賞。68年の参議院議員通常選挙で当選し、政界進出。99年から2012年まで東京都知事を務めた。日本維新の会の共同代表であるが、14年5月に日本維新の会からの分党を表明。