完全食品ソイレントが突きつけるもの

しかしもうひとつ、もっと大きな枠組みでソイレントが突きつけるのは、逆説的ではありますが、人間にとって「食」というものが、どれほど大きな文化的な意味を持つか、ということだと思うんです。

『ニューヨーカー』のレポーターであるリジー・ウィディコムさんが、自分でもソイレントをやってみて痛感したのは、人間は、体の維持という名目のもとに、どれほど大きな楽しみに耽溺していることか、ということだったそうです。三食、何もしなくても、ソイレント飲むだけで良いといわれても、あれも食べたい、これも食べたい、と考えてしまいますよ。買い物も、料理も、あと片付けも大変かもしれないけれど、家族や友人たちと食卓を囲みたくはありませんか?

「食」って、本当に、文化的なもの。そこから文化を取り除くなんて、考えることもできないほどです。

私自身についていえば、できることなら、スーパーに買い物に行って、料理をして、家族と食卓を囲む食生活を続けたいです。あんな料理、こんな料理をしてみたい。うまくいった、おいしかったと喜んだり、あちゃー失敗しちゃったと笑ったりしたい・・・。

ソイレントは、「歩く化学反応」としての人間と、文化的存在としての人間との乖離を見せつけるものだと思うんです。たいていの人は、できることなら、文化的で豊かで楽しくて美味しい食生活をしたいでしょう。でも、自分がそんな食生活をしたいと思い、実際にそれを許される状況にあるからといって、その乖離を見つめずにすむほど、今日の人間を取り巻く状況は甘くないとも思うのです。

早晩、ほとんどすべての人の食生活に関係してくるとみられるのは、気候変動の影響です。気候変動の影響はまず、食品を通して現れるだろうと言われています。供給される食料の種類も変わるだろうし、価格もまた大きく変わっていくでしょう。そのとき、私たちの体には、本当のところ、何が必要なのかを知ることは重要です。

そもそも温暖化の影響うんぬん以前に、今現在も、内戦などの結果として飢餓と栄養失調に苦しめられている人たちが大勢います。そういう人たちに届ける食料は、どんなものであるべきなのでしょうか?

肥満の問題も深刻化しています。つい最近の4月29日、イギリスの医学誌『ランセット』電子版に、ワシントン大学や東大などの国際チームの報告が発表されました。2013年における、約180ヵ国の状況を解析したところ、太ってるか痩せてるかを示す指数BMIが、25を超える肥満の人は、世界全体で成人男性の37%、女性では38%にのぼるそうです。全世界では21億人が肥満で、1980年の8億6千万人から大幅に増加しているそうです。

肥満は、途上国や貧困層に多いんですよね。太ってはいるけれど栄養失調で、生活習慣病のデパートのようになっており、とくにアメリカでは医療費にとって大きな負担になっているのはよく知られています。

また、食事どころじゃない時期ってありますよね? 『ニューヨーカー』の記事の中には、カリフォルニア工科大学の数学や物理の院生たちが、ソイレントDIY実践者として登場していました。うんうん、わかるわかる。体を壊しては研究もできなくなるから元も子もないんだけど、今、頑張んなきゃ、って時はあります。

私自身についていえば、当面、ソイレントをやるつもりはありません。しかし、ソイレントが提起する問題の大きさはわかります。ソイレントは、「食」というものが、分厚い文化的な意味に取り囲まれているということを、改めて思い知らせてくれる。さらにまた、そういう文化的な意味をいったん取り払ったところで、「人間の身体には何が必要か」をきちんと考えなくちゃいけないということも、よくわかるのです。

この5月、最初のソイレント3万ユニットがアメリカ中に発送されたとのこと。まもなく、日本でも購入できるようになるでしょう。いっぺん、試してみます?(笑)

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※このサイトの使い方、さらには(日本では将来的に)アマゾンで材料をまとめて購入するための方法を、日本語で説明した記事がありました。