「東大まで出て、なぜプロゲーマーなのか」
初対面やインタビューにおいて、かれこれ数百回は聞かれてきたこの質問に、本書で初めて答えると同時に、僕がちょっと変わった人生のなかで得た教訓を、みなさんにも考えてみてもらえればと思い、本を書くことにした。
あらかじめ述べておきたいのは、僕は「東大卒のプロゲーマーって、なんか面白くない?」といった、軽快なノリでプロゲーマーになったわけではまったくなかった、ということ。どちらかというと、泥沼のようなところを横切って、プロゲーマーになった。
僕は東大時代に、手痛い失敗を経験している。自分の中に灯っていたすべての火が消え去るほどの、人生の暗黒時代と呼べるような時期を経験したのだ。
その経験をきっかけに、僕は自分自身について深く考えることになった。
結果、「合理化や効率化こそが成功への近道」と固く信じていた価値観が、すべて崩れ去ることになる。そして、プロゲーマーの道を選択した。
さらに、本書にも記したとおり、僕は懲りない男であるため、プロゲーマーになったあともう一度、今度は「合理化や効率化こそが勝利への近道」と信じていた価値観を、見事に破壊される浮き目に遭う。ここで、プロとしての自分の対戦スタイルを一から見直すことになった。
生まれや学歴が1円の価値ももたない勝負の世界で、優勝回数世界一を保ち続けるために、僕が導き出した答え。
それは、最大の武器だった論理や効率を、かなぐり捨てることだった。
格ゲーが好きな方も、格ゲーがどんなものかも知らないという方も、人生で自分の限界にぶち当たって八方ふさがり、どうしようかと悩むときがくるのはみな同じだろうと思う。もしかしたらいま、そのような状況の真っただなか、という方もいるかもしれない。
本書は、僕の拙い経験談をもとに書いたものだが、そのような状況に陥ったときに、読者の方が、実は足かせになっていた自分の武器を放り出したり、あるいは、とらわれていた常識やロジックの呪縛から自分を解放したりするお役に立てれば、これ以上うれしいことはない。