呉智英 × 適菜収 【第2回】
「フランス革命は、市民革命でもなんでもない」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

 今の適菜君の話したことにしても、ジャーナリズムで仕事をしている人たちはあまりわかっていないんだ。ルソーの「ヴォロンテ・ジェネラル」、一般意志というものを楽観的にみんな見ているけれど、大衆が暴走すればこれはファシズムでもなんにでもなる。

この20年ぐらいでフランス革命研究は随分進んできて、いろんな観点からフランス革命を考えるようになってきた。でも、1989年のフランス革命二百年の頃は、あくまでも自由と平等を実現するものだというふうにしか日本の識者は捉えていなかった。

適菜 いまだにそういうバカな知識人はいますけどね。

 俺が大学生の頃に、G・ルフェーブルの『フランス革命序論』が出たのね。古典的な左翼の人で「フランス革命は壮大な祭りであった」という言い方をしている。俺は、高校までの世界史や政治でしか学んでないから、「お祭りだと言われても困るよ」としか思わなかったけど、当時はフランスでもフランス革命に対する批判が出てきていたので、「祭りだ」って言って左翼が糊塗しているという気配が俺には感じられたのね。

適菜 それはバタイユ的な意味での「祭り」ということですか?

 だろうね。ずいぶん昔のことだから、正確には憶えていないけど。適菜君が言うようなバタイユ的意味も含めて、民衆の中にある不条理なものが暴発するようなことがある。狭い意味の政治では説明できないようなものがある。明治維新期なら、お蔭参りのような宗教的な熱狂とか。宮田登のミロク信仰の研究もそうだよね。一種のユートピア思想みたいな。お伊勢参りもそうだし。

適菜 フランス革命は、市民革命でもなんでもなくて、経済問題や貴族の利権、貧民の一揆も絡んでいます。

バスティーユ監獄が襲撃されたのは7月14日で、この日はパリ祭(革命記念日)にもなっているけど、バスティーユ監獄には政治犯は一人もいなかった。中にいたのは借金を踏み倒した奴やコソ泥。あんなものを記念して祝日にしていいのかね(笑)。ヴァンデ戦争では30万人が虐殺されている。だから、フランス革命は暗黒面も大きかった。

【一般意志】
1762年、ルソーが『社会契約論』で提唱した概念。個人の利益ではなく、共同の利益のために動く人民に共通した意志を表す。

【ジョルジュ・ルフェーブル(1874~1959)】
フランスの歴史家。革命史を専門とし、フランス革命の研究においてはアリストクラート(貴族)、ブルジョワ、都市民衆、農民の四層からなる多角的な分析を行うなど、多大な功績を残した。

【ジョルジュ・バタイユ(1897~1962)】

フランスの詩人、劇作家。ニーチェ研究でも知られ、その思想はミシェル・フーコー、ジャック・デリダなど、後のポスト構造主義に影響を与えた。

【お蔭参り/お伊勢参り】
江戸時代に熱狂的なブームとなった伊勢神宮(三重県伊勢市)への参拝。およそ60年周期で多数の庶民による集団参拝が起こり、これを「お蔭参り(お蔭年)」という。

【宮田登(1936~2000)】
文学博士、民俗学者。元日本民俗学会会長で、ミロク信仰(弥勒菩薩を本尊とする信仰)の研究者として知られる。著書に『生き神信仰』『ミロク信仰の研究 日本における伝統的メシア観』など。

【バスティーユ監獄】
1370年、パリ東部に築かれた城塞。17世紀以降は牢獄に転用された。

【ヴァンデ戦争】
1793年、フランス革命期に制定された兵士の強制徴募「募兵令」に反発する農民たちが蜂起した反乱。最終的な犠牲者は、30万とも40万ともいわれる。