呉智英 × 適菜収 【第1回】
「バカが好む民主主義というイデオロギーについて」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

 最近、緑の党とか緑の風みたいな政党が湧いて出てきているでしょう。俺が中学・高校の頃は緑風会という政党があった。正確に言うと、院内会派だね。1965年に立ち消えになったけど、参議院で力を持っていて、「われわれは良識の府としての、そのときごとの時運に流されない」と謳っていた。昔から左翼は緑が好きなんだ。それで、俺が思ったのは、過激派が緑軍ってのをつくらないかと。

適菜 グリーンピースみたいなエコロジー系テロ組織はありますけど。

ボリシェヴィキロシヤ革命を起こしたときに、対立したエスエルの傍系の奴らが緑軍を名乗っていた。緑、つまり、土着という意味なんだ。ボリシェヴィキは、基本的に都市プロレタリアートに依拠しているというのがマルクス・レーニン主義の原則だから、農民は無知蒙昧の民として抑圧の対象だったんだね。

ところがロシヤ革命の初期においては、ロシヤの共同体に依拠する形で出てくる緑軍派というのがいて、エスエルの系統だった。だから、ボリシェヴィキは白軍と緑軍の両方を敵にしなければならなかったのね。支那では他に緑林がいた。これは匪賊。メキシコ革命パンチョ・ビリャみたいな連中です。だから、緑といえば爽やか、というイメージは全然違うんだよね。

適菜 ヨーロッパにもエコロジーを唱える緑系の政党が多いですよね。アメリカのニュー・エイジ思想との関連もある。マルクス主義という大きな物語が消滅した後、左翼の死に損ないが小さな物語に分散して、エコロジーや有機農法、陰謀論に行くんですね。

 その話は面白いから後でやりましょう。近代大衆社会がおかしいということに気づく人が増えてきたという話だったよね。それでは、歴史的に近代がどのような形で大衆社会を準備したのかという話から始めようか。

〈第2回につづく〉

【緑軍】
ロシヤ革命後の内戦期、主としてボリシェヴィキに対する抵抗運動を行った非正規の軍事組織の通称。農民が多く参加し、森林を活動の拠点としたことから「緑」の名で呼ばれた。

【ボリシェヴィキ】
1903年、ロシヤ社会民主労働党の内部に形成された一派であり、ロシヤ語で「多数派」を意味する。ウラジーミル・レーニンを指導者として、ロシヤ革命を主導。後のソビエト連邦共産党。

【ロシヤ革命】
1917年にロシヤで起きた「第二次革命」を指す。武装蜂起により帝政を打倒し、史上初の社会主義政権の誕生を見た(十月革命)。

【エスエル】
社会革命党の略称。十月革命後、女性革命家マリア・スピリドーノワを中心とする同党左派は革命政権の中枢に入るが、ボリシェヴィキと対立を深め、1918年に蜂起。構成員は弾圧され、後に大粛清を受けている。

【白軍】
1917年以降のロシヤ革命期において、旧ロシヤ帝国軍を中心とした反革命側の軍。革命軍=赤軍に対しての呼称。

【緑林】

中国の新王朝(8年~23年)末期において、皇帝である王莽に対し、緑林山に結集して蜂起した武装勢力。

【メキシコ革命】
1910年、ロシヤ革命に先駆けて起きた社会主義的革命。土俗的傾向があり、10年以上にわたって内乱状態が続いた。

【パンチョ・ビリャ(1878~1923)】
メキシコ革命の指導者として、農民軍を率いた。日本でも有名なメキシコ民謡「ラ・クカラチャ」の歌詞にも、英雄として登場する。パンチョ・ビジャとも。

【ニュー・エイジ】
1960年代にアメリカで起きた思想運動。ヒッピーや公民権運動ともつながり、また瞑想、チャネリング、輪廻転生思想など、宗教やオカルトの影響も大きい。