呉智英 × 適菜収 【第1回】
「バカが好む民主主義というイデオロギーについて」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋
『愚民文明の暴走』
著者=呉智英/適菜収
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適菜 いかにしてポピュリズムにブレーキをかけるかが、いまや全世界的な課題になっています。小泉純一郎は典型的なポピュリストでしたが、ああいう形のポピュリズム政治を露骨に日本で導入したのは、小沢一郎だと思います。小沢が細川護熙を担いで八党派連立政権をつくったときも、メディアや広告代理店を使ってイメージ操作を行っている。だから、小泉がやったことは小沢の手法の焼き直しなんですね。

「抵抗勢力か改革派か」という二項対立の手法も、小沢が自民党内の派閥抗争で始めたことです。梶山静六佐藤孝行を「守旧派」という悪玉に仕立て上げて、自分たちは改革派を名乗った。1994年の政治改革法案により、衆議院の選挙制度は中選挙区から小選挙区比例代表並立制に移行し、政党交付金制度により国から政党に資金が配分されるようになります。

そうなれば、確実にポピュリズムが蔓延する。小選挙区にすれば上位二つの政党の争いになりますから、個人の政治家の資質よりも党や党首のイメージであったり、福祉政策や減税を訴えることが選挙の勝利につながるわけです。日本の政治が急激に劣化した理由もここにある。

 ポピュリズムは政治の技術としては使わなければならない局面もあるかもしれないけど、それが本質になったら、そもそもなぜ政治にかかわるのかという問題になる。それは核兵器と同じ。優れた戦略論者は、「核は必要である。しかし絶対使わないし、使えない」とわかっている。つまり、威嚇には使えるけど、実際に使えば取り返しのつかないことになる。でもそれは戦術だから、核がなくても核があると情報戦で流すやり方もあるわけだ。

適菜ファシズムナチズムもポピュリズムの一形態ですね。大衆を釣るためにはカネの問題も絡んでくる。1996年の衆院選で、新進党は「国民との5つの契約」を示しました。その前年まで小沢は消費税10パーセントへの引き上げを唱えていましたが、選挙前になると消費税3パーセントの据え置きを約束。しかも、財源に触れずに18兆円もの減税を約束します。

民主党時代も、2013年度までに16兆8千億円の財源を生み出すとデマを流した。問題はこうした情報が報道されなかったことではなく、十分報道されていたにもかかわらず民主党が政権を取ったことです。

【小泉純一郎(1942~)】
第87-89代内閣総理大臣。「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」など刺激的な言葉、わかりやすいワンフレーズを多用し、2001年4月~06年9月まで戦後3位の長期政権を築いた。

【小沢一郎(1942~)】

自民党、民主党、国民の生活が第一、日本未来の党などを経て、生活の党代表。結党・解党を繰り返し、時の政治を左右してきたことから「壊し屋」とも呼ばれる。メディア戦略も度々話題になる。

【細川護熙(1938~)】
第79代内閣総理大臣。1993年の第40回衆議院議員総選挙で躍進し、当時新生党の幹事長だった小沢一郎に引き立てられる形で非自民連立政権の首相に。還暦を機に政界を引退したが、小泉純一郎の推薦を受けて2014年の東京都知事選に出馬し落選。

【梶山静六(1926~2000)】
1992年、自民党・金丸信の議員辞職による後継竹下派会長をめぐり、小沢一郎と対立。政治改革を掲げた小沢は梶山を守旧派と位置づけ、対比を明確にした。両者の確執は「一六戦争」と呼ばれる。

【佐藤孝行(1928~2011)】
1963年に初当選し、自民党で運輸政務次官、国務大臣総務庁長官などを歴任。1967年に発覚したロッキード事件において、全日空ルートの主犯格として有罪判決を受ける。政治改革を停滞させる守旧派の代表格とされた。

【ファシズム】
イタリアの第40代首相ベニート・ムッソリーニが提唱、実践した政治運動、思想。現在では独裁政治、全体主義的な思想や運動の代名詞として使われる。

【ナチズム】
アドルフ・ヒトラー(ナチス)による国家社会主義運動。徹底したゲルマン民族至上主義、強固な独裁体制が特徴。